240 / 448
見えない光18
「はい、水。身体……起こせるかい?」
ぼんやりしていたら月城が戻って来て、氷と水の入ったグラスを差し出してきた。
樹はのろのろと頭を動かそうとしたが、やはり身体が重怠くてピクリともしない。
「ごめんなさい……無理」
囁くようにしか出せない声で答えると、月城は優しく微笑んでくれた。
「謝らなくていいよ。じゃあ起こしてあげる」
月城はサイドテーブルにいったんグラスを置くと、ベッドの上にあがってきて樹の身体を抱き起こした。しっかり支えてもらっていても、またベッドに沈み込んでしまいそうな位、身体が重い。
月城は自分の身体にもたれ掛けさせながら抱っこしてくれると、手を伸ばしてグラスを掴んだ。
「ストロー、持ってくればよかったかな」
樹は必死に首を横に振り
「だい、じょぶ」
月城の手からグラスを受け取ろうとするが
「待って。そのままじってしててね」
そう言って、グラスの水を自分の口に含むと、顔を近づけてきた。
月城が相手でも、口移しに水を飲まされるのは嫌だった。でも、拒絶したくても動けない。
嫌々だったが、月城の与えてくれた水は、冷たくて気持ち良かった。自分の喉がコクコク鳴る音が聴こえて、ひどく喉が乾いていたんだな……としみじみ感じた。
「もっと飲む?」
3回口移しされた後、口の端から零れる水はを指先で拭いながら、月城にそう言われて、樹はのろのろと首を振った。
「も、いい。ありがと」
背もたれにと、月城が大きな枕を2つ折りにして、背中にあててくれた。
本当はまたベッドに横たわりたかったが、樹は大人しくされるがままになっていた。
「お腹は空いてる?」
樹はゆっくりと首を横に振ると
「僕……ずっと、寝てた?」
途端に月城が痛ましげに顔を顰めた。
「覚えてない?」
水を飲まされている間に、頭の中の靄は晴れていった。自分は病気で寝ていたわけじゃない。
叔父に次から次へとやらされた行為のせいで、意識が朦朧として……気を失ったのだ。
最中は何が何だか訳がわからなくなっていた。
まるで自分の意思をなくした人形のように。
でも、自分が何をされたか、どんなことをさせられたかは、全部……覚えている。
身体の奥からどろどろに腐って、真っ黒になっていくような気がする。
もう後戻りは出来ないのだ。
自分はもう、元には戻れない。
油断するとチラつく優しい薫の笑顔。
樹はぎゅっと目を瞑って、幸せな幻影を脳裏から追い出した。
「……覚えてる」
「そう……。辛い、よね……」
「辛く、ない。僕が、自分で、選んだことだから」
すかさず返した言葉に、月城は目を見張り息をのんだ。
そんな顔、されても困る。
月城さんは何も悪くないんだから。
ともだちにシェアしよう!