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見えない光21
「突然押しかけてきて、俺に何の用だ?」
せせら笑うような叔父の声に、父親に感じたのと同じ苛立ちがふつふつと沸き起こる。
「会いたいと電話でご連絡したはずですが」
「ふん。まあいい。入れよ」
巧は鼻を鳴らすと、玄関の中に薫を招き入れた。
「おまえが俺の所に訪ねてくるなんて、何年ぶりだ?」
言いながら奥へ向かおうとする巧に、薫はすかさず声を掛けた。
「話はすぐに済みますから、ここで結構です」
巧は足を止めて振り返ると、呆れたようにわざとらしいため息をついた。
「相変わらず礼儀を知らん男だな、おまえは。人付き合いには順序ってものがあるのだぞ」
この叔父や父親と、たとえ社交辞令でも親しく付き合いたいとは元から思っていないのだ。
薫は巧の嫌味を無視すると
「樹はいますか? 迎えに来たんです」
巧は大袈裟に目を見開いた。
「樹を迎えに? おまえが? それは何の冗談だ」
……ちっ、狸が。
わざととぼけてみせる叔父の態度が忌々しい。
「奥にいるなら連れていきます。樹は何処です」
巧は、今度は不機嫌そうに目を細めた。
「話が見えないな。いきなり何を言っているんだ、おまえは」
「裏は父から取ってあります。あなたとだらだらくだらない話をする気はないんです。樹を、返して下さい」
巧は腕を組んで嫌な笑いを浮かべた。
「ふん。兄さんから聞いたのか。だとしても、返して下さいってのはおかしいだろう。樹はお前のものじゃないぞ?」
「あんたのものでもない。寝室ですか?
おいっ、樹っ。兄さん、お前を迎えに来たんだ。いるなら返事してくれっ」
「おい。やめないか。ちょっと頭を冷やせ、薫。樹はここにはいないぞ」
「なら、何処です。樹をどこにやったんだ」
巧はくつくつと喉を鳴らして笑うと
「あのなぁ、薫。そういうクソみたいな態度のおまえに、教えてやる義理はないぞ。もうちょっと礼儀をわきまえてから出直すんだな」
クソみたいな態度はどっちだ。
嘲笑う巧の目を、薫はギロっと睨みつけた。
「あんたに礼儀を言われる筋合いはない。樹は俺の弟だ。何処にいるのかきちんと答えろ」
巧は尚も面白そうに声をあげて笑うと
「樹はな、親権者の兄さんから、俺が、預かった大事な子だ。無礼なおまえに教えてやる気はないぞ。ん? わかったらさっさと帰れ。俺は忙しいんだ」
薫は靴のままあがると、背を向けようとする巧に掴みかかった。
「言え。樹は、何処だ!」
「手を離せ」
「樹は、何処だ!」
巧は掴まれた肩先をちろっと見て、にやりと口を歪めた。
「警察を呼ぶぞ?」
「呼べるなら呼んでみろっ」
「おいおい、いい加減にしないと本気で怒るぞ? 手を離せっ」
巧は薫の手をビシッと振り払い、乱れた上着を直した。もう1度掴みかかろうとする薫の手をすかさず避けて後退り
「そんなに教えて欲しいなら、土下座してみろよ、薫。お願いします、教えて下さいって言ってみろ」
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