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見えない光22
「土下座? なぜ俺があんたに土下座なんかしなくちゃいけないんだ」
ムキになるな。
叔父のあからさまな挑発に乗ってはいけない。
冷静になれ。
そうは思っていても、沸き起こる焦燥と怒りを抑えきれない。
「情報ってのはタダじゃない。おまえがもっと殊勝な態度が出来たら、知りたいことを教えてやってもいいんだぞ?」
……このっ
薫は、思わず殴りかかりたくなる拳を、グッと握り締めた。
……落ち着け。冷静になれ。こいつを殴っても樹は救えないんだ。
父親から聞いた樹の話は、おそらくこの叔父の仕組んだことだ。やはりあんな話は信じられない。叔父が何故、そんなことをしてまで樹を自分の手元に置きたいのかは分からないが、勝ち誇ったような叔父の態度で、薫は確信した。
「俺は土下座なんかしない。それよりどうしてあんたは、父さんにあんなデタラメを吹き込んだ!」
「……デタラメ?」
「樹のことだ。樹が心の病だなんて嘘を、何故父さんに言った?」
巧は片眉をあげて口元を歪めた。
「ふん。兄さんからそこまで聞いたのか」
「あんた、何を企んでる? どうして樹を」
「俺は別に何も企んじゃいないぜ。本当のことを言っただけだ」
「ふざけるな! 樹は病気なんかじゃない!」
「おいおい。おまえに何が分かるっていうんだ? 専門家でもないくせに余計な首を突っ込むのはよせよ」
巧は鼻でせせら笑うと、薫の方に歩み寄ってくる。にやにやと嫌な笑いを浮かべながら顔を覗き込んできて
「なーるほどな。どうやらおまえも、樹にたらし込まれてるってわけか」
「何!?」
「ひょっとしておまえ……樹と何かおかしなことになってるんじゃないだろうな? そういえば兄さんがボヤいていた。樹がこそこそと家出しては、おまえに会いに行っていたと」
「……っ」
したり顔の巧のひと言に、薫は息をのんだ。
……おかしなことって……それは……
巧が何のことを指摘しているかは知らないが、そう切り込んでこられると、薫には負い目があるのだ。義理とはいえ、まだ幼い弟と……身体を重ねてしまったことだ。
樹を抱いてしまったことを後悔はしていない。
あれは、自分と樹にとって、大切な愛の儀式だった。
それでも……負い目は感じている。樹がもっと大人になって、己の行動にきちんとした判断がつくまで、自分は待ってやるべきだったのではないか……と。
激情に流されて、樹を抱くべきではなかったのではないかと、ずっと自問自答しているのだ。
相反する2つの思いが、薫の心に重くのしかかっていた。
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