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見えない光23
「その顔は……図星か? おいおい、ちょっと待てくれ。まさかとは思ってたが、おまえみたいな堅物が樹に……?」
「話を、逸らすな。あんたが何の話をしているのか、俺には」
つい、怯んでしまった隙をつかれた。巧はますます嫌な笑い方をしながら、顔を寄せてきた。
「なあ、薫。おまえは知っているのか? あの子の……樹の正体を」
薫はじりっと後ずさった。
「正体? 正体ってなんだ」
「知らないようなら……教えてやってもいいんだぞ?」
「さっきから、思わせぶりなことばかり言ってるけどな。樹のことなら、俺は」
「あの子はな、藤堂家に引き取られる前から、かなり問題のある子だったんだよ。母親が打ち明けてくれたんだがな」
薫の反論をまるせねじ伏せるように、巧が畳み掛けてくる。
「……母親が?」
「そうだ。アパートに母子2人で暮らしている頃、あの子はアパートの一階にある喫茶店に入り浸っていたんだ」
……アパートの……喫茶店……?その話なら……
以前、大学の先輩の店に連れて行った時に、樹本人から聞いたことがある。
そこのマスターに、珈琲のことをいろいろ教えてもらったのだと、ちょっと得意気に教えてくれた。
「そのことなら樹が」
「そこの主人は奥さんを事故で亡くして1人暮らしだったんだがな、樹は自分からそいつを誘惑して、身体の関係を持っていたらしい」
「……っ?」
……今……なんて言った?
薫が再び絶句すると、巧は耳の横で意味ありげに声をひそめた。
「自分の身体をそいつに弄らせて、挙句の果てには抱かせてな、そのことをネタに小遣いをせびってたんだ」
薫は目を見開いて、叔父の顔をまじまじと見つめた。
……何を、言ってるんだ、こいつ
そんな話はありえない。樹はそんな子じゃない。あの母親がそんな話をこいつに打ち明けるはずが……
「もちろん、兄さんはこの話を知らない。俺が直接、樹の母親から相談を受けたんだ。まったく……自分の息子のそういう性癖を隠して、まんまと兄さんの後妻になるなんてな。あの母親も相当な玉だよ」
「……いい加減にしろ」
「まあ、おまえが信じられないのは無理もないがな。あの子には、最初、この俺ですら騙されて」
「いい加減にしろよっ。よくも……よくもそんなでっち上げを」
薫はとうとう堪えきれずに、巧に掴みかかると、シャツの襟をぎりぎりと締め上げた。
「ふん。おまえは騙されているんだ。あの子の見せかけの美しさにな」
「うるさいっ。それ以上、樹を侮辱するのは許さない!」
「頭を冷やせよ、薫。おまえがムキになったところで、真実は変わらないぞ? 樹が家出して何処で何をしていたのか、おまえは何も知らんのだろう? あの子は見せかけの可愛らしさとは別の顔を持った、恐ろしい悪魔だ。おまえはあの子に、いいように誑かされているだけだぞ」
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