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見えない光25
「……証拠の……動画……?」
……樹が……男を誘惑……?
不意に、鮮やかに蘇る樹の不器用な笑顔。
……違う。樹は、あいつはそんな子じゃ、ない。
時折感じた違和感と甘い香り。
あれはいったい……何だったのか。
幼くて感情表現の乏しい樹が、急に大人びて艶めいて見える時があった。一度や二度じゃない。何度も。
そうだ。あの子を抱くことになった時にも……微かに感じていた違和感と疑惑。
気のせいだと打ち消して、深くは考えないようにしていた。でも……
「俺の言うことが信じらないなら、観てみればいい。おまえのその目で確かめてみろよ」
叔父の妙に穏やかな声が、どこか遠くに聴こえる。ありえないと強く反発する自分の心とは裏腹に、小さな疑惑は少しずつ広がっていく。……小石を投げ入れた池の波紋のように、静かに。
……違う。違う。……違うっ。
薫はぎゅっと目を瞑り、頭の中に浮かび上がる妖艶な色香を纏う樹の肢体を……打ち消した。
「そんな、動画は、証拠にはならない」
「それは、観てから判断すればいい。……怖いのか?認めるのが。そこにおまえの知らないあの子が映っているのが……怖いか?」
叔父の低い声が、耳から忍び寄る。
薫は顔を背け、叔父の目を見ないようにした。
……ダメだ。騙されるな。こいつの言うことなんか信じるな。
「ふん。まあいい。どうしても観たくないなら無理にとは言わんさ」
叔父はそう言って鼻で笑うと、呆然としている薫の肩を押しのけ、奥のリビングへと足を向けた。
「待て。俺の質問に答えろ!樹は何処だ!」
巧は立ち止まり、大きな溜息を吐くと
「おまえもしつこい奴だな。そんなに知りたければ教えてやるよ」
ポケットから財布を取り出し、名刺らしきものを引き抜くと、指先でぴんっと弾いて薫の方に投げてよこした。
床に落ちたのはやはり1枚の名刺だ。
薫はそれを食い入るように見つめた。
「そこの住所に樹はいるぞ。直接会って問いただしてみろ。俺の言うことが本当かどうかな」
叔父の意外な行動に、薫は顔をあげ、叔父の顔をまじまじと見つめた。
こんなに呆気なく、何の条件もつけずに、この男が樹の居場所を教えるとは思わなかった。
……何を考えている……?
叔父の表情には、呆れたような皮肉めいた笑みが滲んでいるだけだ。
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