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月の腕(かいな)に抱(いだ)かれて1※
「叔父さん、何て?」
電話を終えて戻ってきた月城に、樹はぼんやりと目を向けた。月城はこちらを見ない。青ざめた横顔を見せたまま、何か言おうとして口を動かすが、すぐに閉じてしまった。
「次は、何をしろって、言ってた?」
樹が静かに問いかけると、ちらっとだけこちらを見て
「カメラ……の前で、君を、抱けって」
「……そう」
樹は小さな吐息とともに頷くと、着ているガウンの紐を解いた。
「カメラ……どこ?」
突っ立ったまま、動こうとしない月城を再び促す。月城は天井を仰いでから、のろのろとこちらに近づいてきて
「あそこ。姿見の脇だよ」
「わかった」
樹は月城の指差す方を見て頷き、監視カメラの方を向いて立つと、ガウンを脱ぎ捨てた。
姿見に映る全裸の自分の身体をじっと見つめる。我ながら貧相な身体だな……と思う。月城の身体もかなり細身だが、筋肉が程よくのった美しい体型だ。学校の体育の授業で着替えたり水泳の授業で水着姿になると、同じクラスの誰よりも子供っぽくて華奢過ぎる自分の身体が恥ずかしかった。
でも叔父は、自分のこういう身体つきが好きなのだ。いや、むしろ、こういう子どもっぽい体型じゃないと興味がわかないのだと、月城が教えてくれた。それがあの人の性癖なのだと。
樹は自分の全身を上から下までもう1度見て、ふう……っと溜め息を漏らした。
こんな、なんの魅力もない自分の身体が、あんなに大人な叔父の興奮の対象になるなんて……不思議だ。もっと身長が伸びて、筋肉がついて、大人っぽい身体つきになったら、叔父は自分を解放してくれるのだろうか。もうおまえは用済みだと、叔父の所から放り出されるのか。
もしそんな日が来ても、もうあの家には戻れない。自分の身体は真っ黒に汚れて腐り果てているだろうから。義兄に繋がるあの家に、もう自分の居場所はないのだ。
その時、自分はどうするのだろう。
誰の手も頼らずに、独りで生きていくのだろうか。生きて……いけるのだろうか。
「樹くん。これ……付けさせてね」
遠慮がちな月城の声が背後から聞こえてきて、樹は物思いからはっと我に返った。
月城の手にあるのは、もう見慣れてしまった性具だ。射精を管理する為の道具。
ここに来てから数日で、自分は今まで知らなかったことを、いろいろ知ってしまった。
あれをつけて抱かれるのは、すごく苦しいのだ。出したいのに思う方に出せなくて、身体の奥にマグマのような熱が溜まっていく。苦しくて気持ちよくて狂ってしまいそうになる。
でも、嫌だとは言えない。
優しい月城を、困らせてしまう。
大好きな義兄に、迷惑をかけてしまう。
……ダカラボクハ、イヤダッテイッチャイケナイ
樹は自分の目を見ようとしない鏡の中の月城に、無言で頷いた。
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