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月の腕(かいな)に抱(いだ)かれた星5※

「樹」 「出てって! 2度と僕に、近づかないで!」 「っ。樹、どうしてなんだ。おまえ、にいさんと約束したよな? にいさんがそいつの、代わりになるって。もうそいつには会わないって」 樹は、月城の頭をぎゅっと抱きかかえ、薫を睨みあげた。 「そんなの、無理。だって、僕は月城さんのことが、好きなんだ。にいさんはにいさんでしょ。僕の恋人なんかじゃ、ないっ」 震える涙声。 でも樹はキッパリとそう言い切る。 この幼げで儚い見た目の樹の、いったいどこからこんな強さが出ているのだろう。心とは裏腹の哀し過ぎる嘘なのに、樹は必死に言い張っているのだ。ただただ、薫を守るために。薫の将来を台無しにしたくない一心で。愛しているからこそ、義兄が大切だからこそ、このか細い手で護ろうとしているのだ。 薫はまた、顔を引き攣らせて言葉を失くした。 ……無理だ。樹くんのこの迫真の演技じゃ、薫くんがどんなに樹を愛していても、見破ることなんか出来ない。頼むから、その手を伸ばせ。樹くんの血を吐くような偽りの言葉に惑わされるな。 あんたしかいないんだ。差し伸べたその手で、樹を救い出してやれるのは。 月城は樹の腕の間から、監視カメラの方にちらっと目をやった。 冷たいレンズ越しに、こちらを見ている巧の目。 あの目の呪縛から、自分は解放されなければいけない。もう無理なのだ。限界だ。彼の支配から逃れるならーーーそれは、今しかない! 月城が覚悟を決めて口を開こうとしたその時、薫が動いた。 手を伸ばし、樹の腕を掴むと 「おいで、樹。にいさんと一緒に行こう」 「っ」 樹はびくんっと震えて息をのんだ。 薫は強ばった顔にぎこちなく微笑みを浮かべている。 「なあ樹、おいで。話なら、にいさんいくらでも聞いてやる。でも今は一緒に行こう、な?」 表情は酷く強ばっているが、優しい眼差し。 そして穏やかに心にしみてくるような優しい声。 月城は呆然と薫を見上げて、開きかけた口を閉じた。 薫は、樹だけを見ていた。 他の何にも惑わされず、ただ樹だけを見つめている。 自分を抱える樹の身体が、小刻みに震え出した。樹は、自分に差し伸べられた薫の手を見ている。泣き出しそうな目で、じっと。 ……樹くん。その手を、掴んで! 月城は祈るような思いで、心の中で樹に叫んだ。樹は薫の手を見つめたまま動かない。 「おいで、樹。俺と一緒に行こう」 薫が再び、口を開く。 その表情は、さっきよりも柔らかい。 その声音に、迷いはない。 その眼差しは、優しく真っ直ぐに、樹だけに注がれている。 樹の身体が、がたがたと震え出した。 口を震わせ、何か言おうとしても、言葉にならない吐息だけが漏れる。 「樹くん、掴んで」

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