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月の腕(かいな)に抱(いだ)かれた星7

「ねっ離してよっおろせってばっ、にいさんの、ばかっっおろしてよっ」 車を停めた表通りまでは、まだ距離がある。 腕の中で泣きながら、めちゃくちゃに暴れる樹を、何度も落としそうになった。 薫はこのまま抱いて連れて行くのを諦めて、目立たないように外壁近くの植木の陰に行くと、いったん樹の身体を地面に降ろした。 途端にマンションに引き返そうとする樹に、追いすがって後ろからぎゅっと抱きすくめる。 「っはなせってば離せよ!」 「樹。頼むから暴れるな」 「離せよ!戻んなきゃっ月城さんがっ」 「頼む、樹。騒がないでくれ、頼むよ。にいさん、これじゃあおまえを、誘拐したみたいになってしまうから」 「っ」 弱り果てた薫のそのひと言に、泣き喚き暴れていて樹が、ぴたっと静かになった。 薫は抱き締める腕の力はゆるめずに、身を乗り出して樹の顔を覗き込む。 樹は真っ赤に泣き腫らした目でこちらを見返した。涙の粒が睫毛にくっついて、外灯の光を受けて煌めいている。 「にい、さん……」 「とりあえず、まずはにいさんと車に行こう、樹。おまえと話をしたいんだ、きちんとな」 樹は大きな瞳をぎゅっと歪めると、マンションの方にうろうろと視線を彷徨わせた。 「……っでも、月城さ、でも、僕、」 しゃくりあげる忙しい息の合間に、必死に言葉を紡ぐ樹を、薫はせつなく微笑んでぎゅうっと抱き締め 「月城はおまえに逃げろと言っていた。だから今は、にいさんと一緒に行こう、樹。どんな事情があるのか、ちゃんと教えてくれ」 「……っでも!」 「樹……お願いだ。にいさんと行こう?な?」 「……っ」 樹の身体から、がくんっと力が抜ける。 卑怯な言い方をしていると、自覚はあった。樹は自分と一緒に行きたがってはいない。あのまま月城の側にいたかったのだろう。でも優しい子だから、自分の必死の懇願を無視することは出来ないのだ。 さっき目に飛び込んできた衝撃的な光景。 月城の身体を受け入れて、悦びに身を捩る樹の艶めいた肢体。そして甘えたような喘ぎ声。 もう、ありえないことだと、打ち消すことは出来ない。樹は月城に抱かれていたのだ。おそらくは、何度も。樹自身の意思で。 ハッキリとこの目で見てしまった。この耳で聴いてしまった。信じたくはなかった真実を。 沸き起こった憤怒に抗えず、月城を殴り飛ばしてしまったが、邪魔者なのは彼ではなく自分だ。樹は彼を愛しているのだから。 それでも、諦めることが出来ずにいる。嫌がる樹を強引に引き剥がしてでも、自分は樹を、月城に渡したくない。誰にも、渡したくない。

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