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月の腕(かいな)に抱(いだ)かれた星14※
もう2度と会えないのだと思っていた。
大好きだから。
大切な人だから。
幸せになって欲しいから。
その義兄が、自分を探しに来てくれた。
薬の熱にうかされながら、樹は薫にまた会えた幸せを噛み締めていた。
本当は、来てはいけなかったのだ。
もう義兄は、自分に関わってはいけない。
分かっていても、嬉しかった。
自分に伸ばしてくれるその優しい手を、掴んではいけないのに。
義兄にはこれから先、輝かしい未来があるのだ。
自分の存在は、薫にとって邪魔でしかない。
分かっていても、強くは拒めなかった。
闇に引き摺りこまれようとしている自分を、力強く引き戻してくれようとするその手を、どうしても払い除けることは出来なかった。
愛しているのに。
愛しているから。
欲しがる心と、戒める心。
ふたつの想いに、心は乱れ、引き裂かれる。
好きなのに、突き放せない。
好きだから、突き放せない。
どうして自分は、こんなにも弱いんだろう。
覚悟を決めて、ただ愛された記憶だけを胸に抱き締めて、生きていこうと思っていた。
その義兄が、今、自分を抱き締めてくれている。深く繋がって、ひとつに溶けている。
義兄の身体の重みが、嬉しくて心が震える。
またひとつになれた歓びに、幸せ過ぎて苦しい。
……ああ。どうしてこんなにも、自分は悪い子なんだろう。
月城を殴り飛ばし、自分をあの檻から救い出してくれた義兄。
浅ましい姿を見られてしまったショックよりも、義兄がそれでも自分を求めてくれたことが嬉しい。たとえ軽蔑されていても呆れられていても、ただただ義兄とこうして一緒にいられることが嬉しい。
このまま自分を攫って、何も苦しまなくていいい世界に、連れて行って欲しい。
そんなことは見てはいけない夢だ。
ダメだと分かっている。
それでも……義兄に抱かれている今だけは、この幸せを離したくないー!
……兄さん……。好き……好き……っ
夢はいつかは醒める。
でも、今だけは、貴方の、恋人でいたい。
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