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碧い兎8

「……じゃあ……キス……してよ」 さっき樹が、掠れた声で呟いた時、薫はぐらりとした。思わず、樹の小さな唇をちらっと見てしまった。すかさず頭の中の声が「ばか。それはダメだ」と慌ててブレーキをかけた。「相手はまだ子供だ。しかも男で弟なんだぞ」と。 理性を総動員して、必死で目を逸らしかけた時、樹に、出来ないよね、兄さんは兄さんだから、恋人になんかなれないよね、と言われて、薫は激しく動揺した。樹に嘘つきっと泣きそうな顔をされて、焦ってしまった。嫌いだと詰られて、頭の中が真っ白になった。 (……だからって……本当にキスしてどうする!? 嗚呼……。本当にもう滅茶苦茶だ。俺はいったい、何をやってるんだ?) 混乱し乱高下する心とは裏腹に、薫は樹の甘い唇を離せなくなっていた。こちらにすっかり身を委ね、樹は積極的に舌を絡めてくる。 ん……ん……っと鼻から小さな吐息をもらす、樹の可愛い反応が、自分の雄の本能を刺激していく。薫は夢中で唇を吸い続けた。 「……ん……ん……」 そっと目を開けて、樹の様子を窺ってみた。樹はうっすらと目を開け、長い睫毛を震わせている。その切なげな表情に、心拍数が一気に跳ね上がった。 (……なんだこれ……。まずいだろ。本気でシャレにならない) 樹とのキスは、ちょっとびっくりするぐらい気持ちがいい。下腹に覚えのある熱が溜まってきてぞわぞわする。 樹の小さな唇が、舌をちゅっちゅっと吸う。その度にもれる甘ったるい声に、薫はますます煽られていった。 (……こんな口づけを俺は知らない。唇を重ねるだけの行為が、こんなにも気持ちいいなんて、情けないことだが、俺にはまったく未知の体験だ) ソファーの背もたれに押し付ける形で、樹にのしかかる。背中に腕を回し、すがりつくように抱きついてくる華奢な身体が、愛おしくて堪らなかった。 (……義兄さん。義兄さん。義兄さんっ) 薫に抱き締められただけでも、樹はすっかりのぼせ上がっていたのに、今、キス……してもらっている。 (……こないだの時みたいに、変になっちゃう飴、使ってないのに。 嬉しい。でも怖い。なんで? なんで?) 月城の代わりに、恋人になってくれるなんて、同情して言ってるだけだと思った。もしかしたら、子ども相手だから、テキトーなこと言って誤魔化そうとしてるのかな? と思った。 だって、そんな夢みたいなこと、あるはずがないのだ。ずっと側にいてくれるって言ってくれたのは嬉しいけれど、義兄が自分なんかの恋人になってくれるはず、ない。 滅茶苦茶に暴れた手が、薫のほっぺに当たってしまった。 (……うわっ……義兄さんのこと、叩いちゃった。どうしよう。最悪……。泣きたいよ) 薫に手首を掴まれて、ぐいっと引き寄せられた。顔が近づいて、唇に薫の唇が重なった。 その瞬間、頭ん中が真っ白になって、樹はピキピキにフリーズしてしまった

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