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碧い兎7
樹は叫ぶと、腕の中でじたばたと暴れ出した。胸に手を突っ張らせ、腕を外そうと無茶苦茶にもがく。
「ちょっと、待て、樹。暴れるなって」
「離せってばっ」
振り回した樹の手が、弾みで頬にバチンと当たった。
「っあ……っ」
樹は息を飲み、ピタリと動くのを止めた。
打たれた自分よりも痛そうな顔で、樹は口をぱくぱくさせている。嘘をつけない樹の目は、ゆらゆらと揺らめいて、今にも泣きそうだ。
(……あ~……泣くなよ、樹)
胸の奥がキリキリと痛む。樹を泣かせるのは嫌だ。
「テキトーなことなんか、言ってないぞ、俺は。おまえに嘘なんかつかない」
自分の声が、動揺で掠れているのが分かる。薫は、樹の手首をぎゅっと掴んで引き寄せ、その唇に唇を重ねた。
触れた瞬間、樹の身体がびくんっとはねた。驚愕に見開かれた目が、至近距離で見つめている。薫はなんだか切なくなって、目だけで樹に微笑みかけると、樹の頭の後ろに手のひらを当ててぐいっと抱え寄せ、口づけを深くした。
「……っくん……」
樹は鼻から仔犬が鳴くような甘えた声をもらし、ぎゅっと目を瞑った。
樹の唇は柔らかくて、誘うような甘い香りがした。
がちがちに強ばっている唇を、少し強引にこじ開けると、舌を挿し入れた。逃げる樹の小さな舌を、追いかけて絡めとる。
そっと樹の表情を窺うと、閉じた瞼と長い睫毛が、ふるふる震えていた。
見た目で華奢なのはもちろん分かっていたが、こうして抱き竦めると、ちょっと頼りないくらい細い。きつく抱くと壊してしまいそうで、薫は口づけながら、そっと優しく樹の髪や背中を撫でた。
びっくりして固まっていた樹の身体から、ふ……っと力が抜けた。離されて自由になった樹の手が、おずおずと背中に回る。
樹の態度が、自分を拒絶してないことにほっとして、薫は更に深く舌を挿し込んだ。樹は鼻でふぅふぅ息をしながら、舌を絡め返してきた。
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