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蒼い月3
怪訝な顔で自分の様子をうかがってる義兄に、樹はぷくっと膨れっ面してみせた。
「……キ……キス……だけじゃ、兄さんの恋人になったって言えないじゃん」
その言葉に、義兄はものすごく驚いた顔をして仰け反った。そんな彼の反応に、僕の方が驚いた。
(……えっ?……僕、今そんなに変なこと、言った?)
義兄は目を見開いたまま、こちらを見つめてしばらく固まっていたが、ぎこちなくまばたきしてから、ごくっと唾を飲み込んだ。
「……う……じゃあ、樹……。兄さん、他に何すればいいんだ?」
(……え……?何って……)
やりすぎだ。馬鹿なのか?俺は。まだ子供の樹相手に、何故かムキになって、えらく濃厚なキスをしてしまった。しかも、首筋や鎖骨周辺の白い肌に、唇と舌を這わせまくり、滑らかな白い肌に、生々しいキスマークをつけまくり……。挙句の果てに、樹の反応が可愛くて、実はちょっと勃起してたりする。
(……ああああぁ……俺は本当に何をやってるんだよ。弟相手に欲情しててどーする?!)
内心パニックになっているのを樹に気取られまいと、精一杯に平常心を装った。
樹は顔をほんのりと赤く染め、潤んだ瞳がとろんと蕩けている。その、幼いのに妙に色気の漂う表情を見つめていると、後ろめたさとは裏腹に、余計に煽られて堪らなくなる。
(……いやいやいや。これ以上はダメだぞ。いい加減にしろ。邪な輩から大切な弟を守るどころか、ミイラ取りがミイラになっててどうするんだ)
うわぁ~っと大声で喚いて、頭を掻き毟りたいくらい動揺していたが、それを必死に押さえ込んで
「なあ、樹。おまえの言う通り、ちゃんとキスしたぞ。だからもう月城とは会わないって、約束してくれるよな?」
掠れそうな声を何とか誤魔化しながら、樹に尋ねてみた。もちろん、うんと頷いてくれるだろうと確信して。
(……それなのに、だ)
樹は急に不機嫌そうな顔になり、口を尖らせながら、こちらの予想とはかけ離れたことを言い出した。
「……キ……キス……だけじゃ、兄さんの恋人になったって言えないじゃん」
あまりの意外な反論に、薫の思考回路は一時停止した。
(……なに……?……今、何て言った?)
薫はしばらくの間、頭の中が真っ白になって、惚けたように樹の拗ねた顔を見ていた。
(……キスだけじゃって……。いや、あのキスで充分だろう。これ以上、俺にどうしろと?……っていうか、月城とは他にどんなことしたっていうんだ?……まさか……。まさかあの男、樹に……)
頭の中に、再び、樹と月城が妖しく絡み合う姿が浮かんでくる。2人とも裸で、激しくキスを繰り返しながらもつれ合い、そして……
(……いやいやいや、ちょっと待て。男同士だぞ?……いや、男同士でもそういうことは出来るらしいが。……じゃなくて、あの男、キス以上のことをしたのか?中学生の樹に?)
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