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蒼い月4
薫の身体の重みがふっと消えた。擽ったいのか気持ちいいのか、よく分からない感じで、必死に声を押し殺していた樹は、手を外して、恐る恐る後ろを振り返った。
「……っ」
薫と目が合って、どきっと心臓が跳ねる。
(……なんだろ。義兄さんの僕を見る目、いつもとちょっと違ってて、すっごい熱っぽい感じがする)
「男同士でも、こういうのって、なんか変な気分になるもんなんだな」
薫は照れたような顔でそう呟くと、腕を伸ばしてきて、ソファーにうつ伏せに座り込んでいたのを、優しく抱き起こしてくれた。
「ごめんな。重たかっただろう。兄さん、ちょっと夢中になり過ぎたな。おまえの身体、俺のキスマークでいっぱいだ」
ソファーに座り直した樹に、薫は微妙に目を逸らしながらそう言うと、かがみ込んでキスしてくれた。
(……わ。またキスしてくれた。なんだかずっと夢の中にいるみたいだ。
さっき僕が、キスしてって言ったから? だから義兄さん、こんなに僕に、優しくしてくれるのかな)
またぽやんと考え事してる樹に、薫は唇を離して優しく頭を撫でてくれた。
「なあ、樹。おまえの言う通り、ちゃんとキスしたぞ。だからもう月城とは会わないって、約束してくれるよな?」
熱っぽい眼差しで、目を覗き込んでくる薫に、すかさず頷こうとして樹は迷った。
(……それは……無理。約束……出来ないよ。だって僕、自分で月城さんに会いに行ってるわけじゃないし。叔父さんに命令されたら、僕はまた月城さんのマンションに連れてかれる。もし嫌だって拒否したら)
頭の中に、叔父から何回も見せられた、写真や動画が浮かんできた。自分が自分じゃないみたいに、変になっている写真。あの病気が出ていてる時の、恥ずかしい姿がいっぱい写っている。
動画では、叔父に抱かれて、狂ったように気持ちいいと叫んでいた。
(……もし、叔父さんに逆らったら、あれ、どうなっちゃうんだろ? もしかしたら、義兄さんに見せちゃったりするのかな)
叔父は、はっきりと他の誰かに見せるとは言わなかったけれど、こんな淫乱で変態な姿、誰かに見られたら大変だよな~と笑っていた。樹は病気で、叔父はそれを治す方法をいろいろ調べてるんだよって。もっと大人になって、この病気が酷くなってしまう前に、治療しておかないと、関わる人全員が恥をかくことになるからなって。
(……叔父さんがいろんなことする度に、僕はどんどん変になってる気がするんだけど)
自分が恥ずかしいだけならまだいいけれど、家族にも迷惑かけてしまうのは嫌だった。そのせいで母があの家に居られなくなったり、義兄にまで、恥ずかしい思いさせてしまうかもしれない。
だいたい、義兄にあんな写真や動画を見られたら、ショックで死んでしまう。
(……嫌だ。絶対に義兄さんにだけは見られたくない……っ)
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