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蒼い月5
「樹……。ちょっと聞いてもいいか?」
「……なに……?」
薫が怖い顔で、両肩を掴んできた。
(……何? なんだろ。義兄さん、怒ってる……?)
「おまえの言う、恋人っていうのは、どういうことをするんだ?」
「え……どういう……ことって」
「おまえ、さっき、兄さんが月城の代わりに恋人になれるわけない。恋人になるっていうならキスしてって言ったよな」
(……え……えっと……。僕、そんな言い方しちゃった……のかな……。それって……なんか、脅迫っぽいけど)
樹が答えを躊躇していると、薫はぐいっと顔を近づけてきた。
「で、今、俺はおまえにキスしたぞ。でも、キスだけじゃ、恋人じゃないって言っただろ?」
「……う……言った……けど……」
(……義兄さんの目、怖い。やっぱり僕、怒らせちゃったんだ)
すごく幸せで、身体も心もふあふあしていたのに、一気に凍ってしまった。胸の奥が冷たくなっていく。
(……僕、きっと失敗しちゃったんだ。優しい義兄さんを、怒らせちゃった。……どうしよう。なんかもう涙、出そう)
「おまえ、月城とはキス以上のこと、してたのか? ……その、つまり……キスよりもっと先の」
(……キス以上? もっと先? え。それって……どういうこと?)
樹は、半分泣きそうになりながら、首を傾げて考えた。
(……えーと。恋人っていうのは、例えば手を繋いで歩いたりとか、遊園地とかに2人で行ったりとか。いつも一緒にいて、いろんなおしゃべりしたり。映画とか旅行とかも行ったりするんだよね。
あ……もちろん、キスも……するけど。でも、キス以上ってどういう意味なんだろう。
……そんなの、僕に聞いてもわかるわけないよ。僕には恋人なんていないんだから。あ、でも義兄さんは知ってるはずじゃん。だって冴香さんと恋人同士だったんだから。
……あ。そっか。義兄さんが冴香さんとしてたこと、僕にしてくれれば恋人って……ことだ)
「えっ……義兄さんが、冴香さんとしてたこと、僕にしてくれれば恋人……だよね?」
ちょっと自信なさげに、樹はそう言って、薫をじっと見つめた。薫はなんだかすごくショックを受けたみたいな顔になった。
(……やっぱり、そうなのか……。月城の野郎、樹にキス以上のことをしてたんだな)
樹が首を傾げながら呟いた言葉に、薫は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。
たしかに冴香という恋人がいて、それなりに大人な関係だったから、キスどころか何度も身体を重ねていた。
さっきの質問に、樹が冴香のことを出してきたってことは、要するに月城と樹はそういう関係だったってことだ。
(……あの野郎……。今からでも遅くはないな。1発殴りに行ってくるか)
樹の身体に点々とついていたキスマークは、要するにそういう行為で付いたってことなのだ。薄々疑ってはいたが、はっきり樹に確認してしまうと、想像以上の衝撃だった。
樹は女の子のようにも見えるが、間違いなく男の子だ。その男の子の身体を、セックスの対象にしていたということは……。あまり考えたくないが、つまり……。
薫は目の前の樹を、改めてまじまじと見つめた。
まだ幼さの残る中性的な顔立ち。抱き締めると折れそうな華奢な身体。性的な知識も乏しいだろうこんな少年が……。
きっと、月城に服を脱がされて、組み敷かれ、無理矢理抱かれたのだろう。無知につけ込まれて。樹は優しい子だから、拒めなかったのに違いない。
(……いや。ちょっと待ってくれ。本当に最後までなのか? ちょっと悪戯された程度なんじゃないのか? つまり、月城のナニを、受け入れさせられたってことなのか? 本当に抱かれてしまっていたのか? こんな……華奢な身体で)
「……樹……っ」
薫は思わず樹の名を呼ぶと、その身体を抱き寄せた。
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