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蒼い月12
(……義兄さん……。僕のこと、軽蔑しないって言ってくれた。嫌いじゃないって。
よかった……嫌われなくって。やっぱり義兄さんは優しいな。
僕、僕ね、義兄さんのこと、大好きだよ。義兄さんが僕にくれる、笑顔も言葉もキスも。一緒に過ごしてくれる優しい時間も。全部全部、大好き。
僕、頑張って、この変な病気、治すからね。叔父さんのする嫌な治療も、僕、これからはちゃんと我慢する。頑張って治して、変になっちゃう前の僕に戻るんだ。
そしたら……義兄さんのこと、もっと好きになってもいいかな。今よりもっともっと……好きになってもいいかな……)
「すごいな~おまえ、そんな料理どこで覚えたんだ?」
樹が煮魚を作ってる横で、薫はまた1人はしゃいでいた。大袈裟過ぎるって可笑しくなるけれど、義兄のこういうところも、樹は大好きだった。
「家政婦さん。教えてくれるよ、いろいろ」
「ふ~ん。うちの家政婦って、あの無愛想な人だろう? 料理なんか教えてくれるイメージないけどな」
(……うん。たしかに……。でも僕、あの人が好きじゃない仕事、いっぱい手伝ったからね)
「へえ。それ、落し蓋とかいうやつか? どっかでもらった景品が、役に立ったな」
鍋の中でぐつぐついっている豚の鼻の形の落し蓋を、薫は感心したように覗き込んだ。
「義兄さんの家に、落し蓋があるっていうのが奇跡。ほんと料理しないんだね、義兄さん」
「うーん……。やらなきゃとは思ってるんだけどな。どうにも面倒臭いんだよなぁ……。作るのに時間かかる割に、食べる時はあっという間だろう? なんかあのやった甲斐のなさが、どうにも好きじゃない」
(……ちょっと拗ねた顔をする義兄さんも、すごく可愛い)
「いいよ。義兄さん、食べたいもの言ってくれたら、俺、また作り方教わっとくし」
樹がそう言うと、薫は嬉しそうに笑って
「それは嬉しいな。じゃあ次食べたいもの、考えとくよ」
「うん。……あ、義兄さん、そっちの鍋でお湯沸かして」
「OK。水はどれぐらいだ?」
「んーと。8分目ぐらい」
薫はいそいそと、大きめの片手鍋に水をくんで火にかけた。
「あと、冷蔵庫の小松菜、取って。付け合せにするから」
樹の指示に、薫はご機嫌な様子で冷蔵庫に向かう。
さっき義兄と、またいっぱいキスをした。義兄はすごく大切そうに優しくしてくれた。
唇を離すと、薫は樹のおでこにちゅっとして
「よし。そろそろ服着て夜飯作るか。俺も手伝うから、何したらいいか教えてくれよ、樹」
いつもと変わらない薫の笑顔に、樹は心から感謝して、肌蹴た服を直してから、一緒に台所に向かったのだ。
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