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蒼い月11

「樹……」 そっと声をかけてみる。 樹は膝を抱えて縮こまり、薫からふいっと顔を背けた。ほっそりとした白い身体には、さっきまでの情熱の名残が、点々と散っている。だが、樹の拒絶の言葉と態度が、薫の昂っていた心を一気に冷やした。 「やっぱりおまえ、月城の方がいいか? ……兄さんじゃ、代わりにならないか?」 未練がましく言いながら、心の奥で当たり前だよなと思っていた。樹はきっと、月城のことが好きだから抱かれたのだろう。だったらそう簡単に、他の人間が代わりになれるはずないじゃないか。 樹は項垂れたまま、首を横に振る。 「でも、俺に触られるの、嫌なんだろう?」 樹は無言で、また首を横に振った。 「なあ樹。俺に気を遣わなくていいんだぞ。本当のこと、教えてくれよ」 樹は顔をあげ、また潤んでしまった瞳で、哀しそうにこちらを見た。 「兄さんこそ、俺のこと、嫌でしょ? 軽蔑してるでしょ?」 樹の意外な言葉に、薫は内心首を傾げた。 (……軽蔑? 月城と身体の関係があるってことか? ……たしかにショックだったが、軽蔑なんかしてないぞ。おまえが本気で月城のことが好きで、そういう関係になったのなら、軽蔑なんかするはずないだろう) 「ばかだな、樹。兄さんはおまえのこと、軽蔑なんかしないよ。信じろよ。おまえのこと、可愛いし大切だし、だから心配なだけなんだ」 樹の目が見開かれる。大きな目にまた涙が滲んできた。 (……あーあ。泣くなよ。せつなくなるだろ) 「……ほんと? ……っ俺……俺のこと、軽蔑しない? ……嫌いに、なんない?」 泣きべそ顔の樹の頭を、薫はそっと撫でた。 「嫌いになんか、なるわけないじゃないか。嫌なら、最初からキスなんかしないぞ」 樹の目の端から、ぽろんと涙が零れた。 「こらこら。もう泣くなよ。兄さん、おまえを泣かせたいわけじゃないんだ」 薫が困った顔をすると、樹はぐすぐすっと鼻をすすって 「……俺のこと、やじゃないなら、もいっかい、キスして?」 「……っ。いいのか? だっておまえが嫌なんだろ?」 樹はぷるぷると首を横に振る。 「嫌じゃ、ない。兄さんのキス、気持ちいい」 「……そうか……。わかった。じゃあ、おいで」 薫が樹に向かって手を伸ばすと、樹はおずおずと身を寄せてくる。 正直、樹の反応に一喜一憂して、上がったり下がったり、さっきから心の浮き沈みが半端ない。 (……でも、まあ、しょうがないよな。どうやら俺は、こいつが可愛くて仕方がないみたいだ) 樹は、触られるのは嫌でも、何故かキスは嫌ではないらしい。腕にしがみついて、一生懸命キスに応える樹に、何とも言えない愛しさを感じながら、薫は小さな肩を抱き寄せ、口付けを深くした。

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