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袋小路の愛16

大浴場は意外と空いていた。 人もまばらな脱衣場で服を脱ぎ、腰にタオルを巻いてロッカーの鍵を掛ける。 樹はきょときょとと珍しそうにあちこち探検していて、まだ浴衣のままだ。 「おい。置いていくぞ」 薫が笑いを噛み殺しながら声をかけると、慌ててすっ飛んできて、こちらを見て慌てて目を逸らした。 「どうした?」 「にいさん、裸…」 「それはそうだ。風呂に入るんだからな。おまえも早く脱げ」 薫が浴衣の肩をつんつん引っ張ると、樹はその手をペシっと叩いて少し離れた場所に行き、こちらに背を向けた。帯を解いて浴衣の袖を抜くと、痛々しいほど華奢な肩があらわになる。 遠目で見ていた薫は、ドキリとして思わず辺りを見回した。 肩と背中だけ晒した樹の色白の身体には、ちょっと危うい雰囲気の艶がある。間違いなくまだ少年の体つきなのに、妙な色気を感じてハラハラする。 薫は後ろから近づいていって、他の客の目から樹の小さな身体を隠した。 意識し過ぎなのは、自分でも分かっている。 おそらくそんな風に感じるのは自分だけなのだ。 ドギマギしながら後ろに立っていると、樹が首だけ回してこちらを見上げた。 「……なに?にいさん」 「いや。脱いだらかせよ。ロッカーに入れてきてやる」 そう言って、樹の分のタオルを渡すと、樹はまた背を向けて浴衣を脱ぎ捨て、下着もおろし、渡したタオルを腰に巻き付けた。 樹の浴衣と下着を自分の隣のロッカーに放り込み、鍵をかける。貴重品は部屋のダイヤル式の金庫に預けてきた。 「さ、行くぞ。まずは中の風呂に入って、温まったら露天風呂の方に行ってみような」 こくんと頷く樹を連れて、浴室に続くドアを開けた。 「わ……」 樹の驚く声が聞こえた。 「すごい……広い……」 湯気の立ち込める大浴場は、この旅館で1番大きい。たしか東北一の広さだと聞いた。 樹の素直な反応が可愛くて、薫は内心満足しながら、奥の壁沿いの洗い場へと向かった。 備え付けのシャンプーで髪を洗い、身体も軽く洗ってシャワーで泡を流す。後で洗ってやると言ったのに、樹はむすっとして首を横に振り、こちらの見よう見まねで自分でさっさと洗ってしまった。 「おいで」 手を差し出すと、周りをきょろきょろ見回してから、おずおずと手を繋ぐ。真っ白な湯気と暗めの照明のおかげで、他の客の姿はそれほど気にならないらしい。 薫は浴槽の1番奥まで行くと、先に足をそっと浸けてみた。ここの湯温はちょっと熱めなのだ。慣れていないとすぐに湯あたりする。 「樹。足だけ入れてみろ」 「うん」 樹は素直に、こちらと同じように足先だけ湯に浸けた。 「どうだ?熱いか?」 「うん、ちょっと熱そう、かも」 「じゃあ、ここはちょっとだけ浸かったら外に行くか」 足を滑らせないように樹の身体を支えながら、2人で浴槽に腰を沈めた。樹はやはり熱すぎるのか、きゅーっと目を細めながら肩まで浸かっている。 「のぼせるからな。ちょっとあったまったら出るぞ」

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