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袋小路の愛21

「どうした?樹」 薫が振り返り、不思議そうに首を傾げる。 樹は上目遣いに薫を睨んで 「だってここ、明るい…」 「あ、そうか」 薫は納得顔で頷いて、昼間のように眩しく照らしている照明のひとつのスイッチを切ってくれた。 壁の間接照明だけになって、樹はほっとして足を踏み入れた。 こじんまりとした広さのここは、タイル張りの床に、大人3人ぐらいが入れる円形の浴槽が埋め込まれている。さっきの和の趣きのある露天風呂とは、だいぶ印象が違っていた。 「プールみたいだろ?」 思ったことをズバリと言い当てられて、樹はじっと薫を見上げた。薫は頭を軽く撫でて 「さ。入ってみるぞ」 風呂の脇にしゃがみ込んだ薫を真似て、樹もしゃがんでみた。 「あっちと違ってここは熱さの調整が出来るんだ。ちょっと手を入れてみろ。熱かったら少し水を足すからな」 樹は頷いて、浴槽の湯に手を入れた。さっきよりだいぶぬるいかもしれない。 「熱く、ない」 「よし。じゃあゆっくり浸かろう」 脇にある風呂桶で汲み上げたお湯を、まずは樹の肩からかけてくれた。 ピリピリしなくてちょうどいい。 薫は自分にも肩からお湯をかけて、先に浴槽に足を踏み入れた。腰を落ち着けると、こちらに手を差し伸べてきて 「おいで」 優しく誘われて樹はその手を取った。支えられながらそろそろと足を入れる。足先が浴槽の床に辿り着くやいなや、ぐいっと抱き寄せられた。 「わっ、」 勢いよく飛び込んでしまった身体を、薫の逞しい胸が受け止めてくれる。樹はドキドキしながら薫にぎゅーっとしがみついた。 ここは2人きりだから、さっきより大胆になっている。薫も、自分も。 お湯の中で互いの肌が、隙間なく密着する感触が嬉しい。 思わず吐息を漏らして顔をあげると、自分を見下ろす薫の優しい眼差しと、目が合った。 「樹……」 「にいさん……」 優しいキスがおりてきた。唇に触れた瞬間、甘い電流が走る。樹は首に腕を回してしがみつき、薫からの口づけに夢中で応えていた。 誰にも邪魔されない、義兄との最後の夜だ。 優しい義兄の、純粋で真っ直ぐな義兄の、全てをこの身体に心に焼きつけておきたい。 「ん…っんぅ…、ん、んぅ…っ」 薫が角度を変えて、舌を割り入れてくる。 もっともっと、深く交わりたい。 義兄と自分の境界線がなくなって、溶け合ってしまいたい。 本当は、離れたくない。 義兄のそばに、いたい。 お荷物にならないように、自分の出来ることは何でもするから。 この人のそばで、生きていきたいー。 ……デモソレハ、ユルサレナイコトダカラ。 絡みついてくる熱い舌を、夢中で吸った。 薫の上に跨って、樹は、触れられる場所全てをピッタリと重ね合わせた。 ……にいさん……にいさん……好き……大好き……

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