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袋小路の愛26
薫は慌てて布団を跳ね飛ばし、ベッドからおりた。
その時ドアが開いて、樹が姿を現す。
「樹」
「あ……ごめんなさい、起こしちゃった」
「何処に行ってたんだ?」
つい咳き込むような勢いで問うと、樹は目を丸くして
「あ…えっと、トイレに」
戸惑う樹の言葉に、薫はようやく我に返った。
「そうか……トイレか」
何故だか、樹は月城の所に戻ってしまったような気がして焦ってしまった。そんなはずはないのに。
「にいさん、どうしたの?寝惚けてる?」
首を傾げる樹の言葉に薫は苦笑して
「あ……ああ。寝惚けてたみたいだな。…おいで」
両手を伸ばすと、樹が腕の中にぽすんっと飛び込んできた。
……大丈夫。いなくなったりしない。樹は俺のそばにいる。
温もりを確かめながら、薫は心の中で自分に言い聞かせた。
さっきの夢の残像がチラつく。嫌な夢だった。樹がどんどん前を歩いていく。追いかけても辿り着かないのだ。遠ざかるばかりで。
……俺はどうかしてるな。
こんなにも満ち足りているのに、どうしてナーバスになってしまうのだろう。
「今、何時だ?」
「まだ真夜中。にいさん、寝て。起こしてごめんなさい」
薫は樹の手を取ると、ベッドに戻った。
「また一緒でもいいか?寝苦しくないか?」
横になりながら問いかけると、樹は何故か目元を紅くして
「うん。……にいさん……あのね」
「なんだ?」
「もう一回……したい……」
消え入りそうなその声に、心臓がドキッと跳ねた。
「……いいのか?眠くないか?」
「ぅん……にいさんが、嫌じゃ、なければ」
もちろん、嫌なはずはない。
薫は樹の身体に覆いかぶさると
「したいよ、俺も。おまえが嫌じゃなければ何度でもな」
囁くと樹はじわじわと頬を染めて、目を逸らした。
愛し合い昂りあって、熱を放出すると、糸が切れたようにくったりとして、うとうとと微睡む。
目が覚めると、どちらからともなく口づけを交わして、また愛し合う。
甘くて熱い2人の夜は、そんな風にして過ぎていった。
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