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想いいづる時2
「樹、お腹空かないか?」
薫に話しかけられて、物思いに耽っていた樹は、驚いて思わずびくっとしてしまった。恐る恐る顔を向けると、薫はちょっと不思議そうな顔をして
「なんでそんな驚いてるんだよ。腹、減らないか? もう昼過ぎだ」
樹は自分のお腹を押さえて、首を傾げた。
「……んと……減ってる……?」
「どうして疑問形だよ。おかしなヤツだな~おまえ」
薫はそう言って楽しそうに笑っている。
「何が食べたい? 昨日はバイトの給料日だったからな。何でもおまえの好きなもの、奢ってやるぞ」
樹は考え込んだ。何、食べたいかな。今食べたいもの……えーと。
「……ハンバーグ……?」
樹の自信なさげな答えに、薫はまた面白そうに笑って
「よし、ハンバーグな。じゃあ、どっきりドンキーに行くか?」
「どっきり……ドンキー……?」
「行ったことないか? ファミレスだよ。あそこのチーズバーグプレートが俺は好きなんだ。上に乗ってるチーズがとろっとしてて濃厚で美味いぞ」
説明を聞いてたら、お腹がぐーっと鳴ってしまった。樹は慌ててお腹を押さえて俯いた。きっと義兄にも聞こえてしまったはずだ。
(……めちゃめちゃ恥ずかしい)
「お。いい返事だな。じゃ、行くぞ」
薫は笑いながらそう言って、車を発進させた。
店に入ると、海賊の格好をした店員が出迎えてくれた。樹はびっくりして、口をぽかんと開けたまま固まっている。薫は樹の横で笑いを噛み殺した。この店のハンバーグが好きなのは本当だが、どちらかと言うと、樹のこういう反応が見てみたかったのだ。いたずらが成功した気分だ。
賑やかな演出をする店員に連れられて、ボックス席に向かう。この店は内装も変わっていて、ボックス席の仕切りが、洞窟や海賊船の船室みたいになっている。コスプレ店員に見とれていた樹は、今度は洞窟みたいな席に案内されて、目を丸くして、きょろきょろと店内を見回している。
普段、表情の乏しい樹の、こういう反応を見るのが結構楽しい。薫はこないだの遊園地ですっかり味をしめたのか、樹を驚かしてやりたくて仕方なかった。
「面白いだろ、ここ」
席に着いて、今度は木で出来たメニューに見とれている樹に声をかけると、樹はようやく薫の存在を思い出したのか、目をまん丸くしたまま薫を見て、こくんと頷いた。
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