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第12章.想いいづる時1
(……遅いな……樹)
樹がトイレに行くと言って席を立ってから、もう30分近く経っている。薫はちょっと心配になってきて、ノートを閉じると立ち上がった。席を立つ前、樹は赤い顔をして落ち着かない様子だった。もしかしたら、風邪がうつって、具合が悪くなっているのかもしれない。
薫は廊下に出て、トイレへと急いだ。
ドアを開けると、洗面台の前に、樹がいた。
「樹、大丈夫か?」
薫が声をかけると、樹はびくっとして振り向いた。その顔がやけに赤い。薫は樹に歩み寄った。
「おまえ、熱があるんじゃないか? 顔が赤いぞ。具合、悪いか?」
薫が近寄ると、樹は尻込みして、首を横に振り
「大丈夫。何でもない」
熱を見ようと伸ばした薫の手を、樹はかわして後ずさる。
「熱、ないから。平気。もう、あっちに戻る」
樹はなんだか必死な様子でそう言うと、焦ったようにドアを開けて、あたふたと廊下に出て行ってしまった。
樹の後を追って薫が閲覧コーナーに戻ると、樹は先に椅子に座っていた。薫は隣に腰を降ろして、手を伸ばして樹のおでこにあててみた。
「うーん……熱はなさそうだな」
「だから、ないって言ったじゃん」
「いや、だっておまえ、30分ぐらい戻って来なかっただろう?具合でも悪いのかって心配したんだぞ」
樹はまだ赤い顔をして、バツが悪そうにそっぽを向くと
「ここ、冷房強いから、お腹冷えただけ」
薫にはそれほど冷房がキツくは感じなかったが、なるほど、樹の座っている真上に送風口がある。直に風があたって、寒かったのだろう。
「よし。じゃあそろそろ出るか」
「え……? 俺もう平気だし」
焦る樹に、薫はにっこりしてみせて
「俺もそろそろ勉強に飽きてきたんだよ。ちょっと気分転換に、別の所に行ってみよう」
鞄に筆記用具を仕舞って、本を持って立ち上がると、樹も写真集を抱えて後に続いた。
「俺はこれ、借りてくけど、おまえはそれ、どうする?」
振り返ってそう聞くと、樹は大事そうに抱えた本に目をやり
「俺も……借りて、いい?」
「分かった。じゃあ、手続きするから一緒においで」
薫の言葉に、樹はおずおずと顔をあげ、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。
車の助手席に乗り込むと、樹はなるべく顔を見られないように、窓の外を眺めてるフリをしていた。さっき、トイレにずっといたのは、あの変な病気が出てしまったせいだ。薫の顔に見とれてたら、昨日の薫とのキスを思い出してしまって、お腹の下が熱くなってむずむずして、大きくなってしまった。慌ててトイレに行って、声が出ないように必死で堪えて自分でしたが、出した後も全然おさまらなくて、樹はパニックになった。
(……それなのに、義兄さん、僕を心配してくれて、おでこに触ったり顔を近づけてくるし)
今も樹のはちょっと大きいままで、すごく落ち着かない。
(……ああ……もう最低だ。僕の身体。いつも叔父さんに、淫乱だ、エロいって馬鹿にされるけど、ほんとにそうだと思う。いつからこんな風になっちゃったんだろう……)
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