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想いいづる時15
樹はベッドが揺れないように、そっと身体を動かして、薫の方を向いた。薫はぐっすり寝ている。彫りの深いきりっとした横顔。
見る度に格好いいな……と思う。
格好良くて可愛くて、優しい人。
急に涙が滲んできて、樹は慌てて薫から目を逸らした。
カーテンの隙間から見える月が、じわじわと霞んで見える。
(……神様って意地悪だ。
どうして僕が初めて好きになった相手が、義兄さんなんだろ。
ううん、違う……。
どうして僕は、義兄さんと同じ男なんだろ。
義兄さんには、ちゃんと大切な大好きな女性がいて、男の僕が義兄さんのこと、どんなに好きになっても、絶対に敵わない。
義兄さんがこんなに優しい、いい人じゃなきゃよかった。もっと意地悪で冷たくて、家にいた時みたいに、僕のことなんか無視して、口もきいてくれない人だったらよかった。
急に訪ねてきた僕を、迷惑そうに追い返してくれたら……。
おまえなんか弟じゃないって、追い払ってくれたら……。
そしたら僕は、義兄さんのこと、こんなに好きになったりしなかったのに……。
……違う。義兄さんが悪いんじゃない。こんなこと考えるなんて、僕はやっぱり悪い子なんだ。いっぱいよくしてもらってるのに、こんな八つ当たりみたいな酷いこと、思うなんて)
昨夜のことを、薫は何か思い出そうとしていた。遠い目をして考え込んだ薫を見て、樹は慌てて声をかけて邪魔してしまった。
昨夜、自分が薫にどんなことをしたか思い出してしまったら、いくら優しい薫でも、きっと怒るだろう。軽蔑するはずだ。
自分は悪い子で、狡い。酷い弟だと思う。真面目で正直で優しい義兄には、全然相応しくない弟だ。
(……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……。
お願いだから……僕のこと、嫌いになんないで。もう、あんな酷いこと、絶対にしないから。嘘ついたり騙したり、絶対に絶対にしない。義兄さんに相応しい弟に、ちゃんとなるよう努力するから。だから義兄さん。僕のこと、嫌いにならないで)
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