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第13章.月の想い・星の願い1
「そろそろ退屈してきただろう?」
朝食の後、薫はちょっと勉強に集中するからなと言って、机に向かった。樹は台所で洗い物をして、薫にやり方を教えてもらって洗濯もした。( 薫はそんなことしなくていいと言ったが、樹がどうしてもやりたいと言って聞かなかった )
それが終わると他にすることもなかったので、樹はベッドを背もたれにして、床に座って借りてきた写真集をずっと見ていた。
樹が顔をあげると、くるっと振り返った薫と目が合った。樹はどきっとしてとっさに目を逸らし
「……別に。退屈じゃない」
「本当か? 漫画とか小説とかもっとあったんだけど、ほとんど家に置いてきてるからなぁ。あ。俺の部屋、おまえ好きに使っていいぞ。本とか全部、おまえにやるよ」
「……義兄さんは、もう戻らないの?」
「うーん……。そうだな。もうあの家に戻ることはないな」
「ふうん……」
「父さんは俺の1人暮らしに最後まで反対だったんだ。家を出るなら、もう親は頼るな。勘当覚悟で出ろってな。俺はもともとそのつもりだったから、最後は喧嘩して、ほとんど家出同然だった。だからもう、あの家には戻らないよ」
「……そう……」
「樹は戻って欲しいか? 俺に」
薫の質問に、樹は慌てて首を横に振った。一緒に暮らしたいけれど、あの家には戻って欲しくない。薫は、ちょっと目を見張って笑い出した。
「こら。嘘でもいいから戻って欲しいって言えよ。速攻で否定か」
「……戻んなくていいじゃん。兄さんが戻りたくないならさ。会いたい時は、俺がここに来ればいいし」
「樹……」
言ってしまってから、樹はびっくりして薫の顔を見た。薫はすごく優しい顔で笑っている。
「そうだな。じゃあおまえに会いたい時は、連絡するよ。おまえ、電車乗り継いでここまで来るの、大変だろ? その時は車で迎えに行ってやるよ。そういえば樹、おまえって携帯電話持ってないのか?」
「……ない。母さんに欲しいって言ったら、高校生になったらって」
「そうか~。そうだよな。おまえまだ中学生なんだもんな」
笑いながらそう言う薫に、樹はちょっとムカついた。
「兄さんは持ってんの、携帯」
「いや。俺も金ないからピッチだけだ」
「ピッチ……?」
「PHS。知らないか?」
樹は首を傾げた。聞いたことはあるが、使ったことはないから詳しくは知らない。
「まあ、安い携帯電話みたいなもんだよ」
「ふうん……。じゃ、俺が兄さんのそのピッチに電話すればいいんじゃないの?」
樹の言葉に、薫はうーんっと唸りながら首を傾げていたが
「よし。じゃあ電話番号教えておくよ。ただな、ピッチは場所によって繋がりにくいからな、あんまりアテにはならないぞ」
薫はそう言って、机の上の鞄から電話の子機みたいなものを取り出すと、ボタンを操作して画面を見ながら、ノートの端にペンで何か書いて、ちぎって樹のそばに来た。
「じゃあこれ、渡しておくな」
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