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想いいづる時14

「なるほど、それか。たしかに素晴らしいよな。ひとつひとつの建物がっていうより、それは町全体の佇まいが芸術だ」 「俺、ちっちゃい頃から、海の近くで暮らしてたけど、こんな青い海も白い建物も、見たこと、ない。俺のアパートも、ボロくて汚くて、あちこち錆だらけだった」 樹は遠くを見ながら、ぽつぽつと話す。樹の口から時折出る、こちらに来る以前の話。樹と母親の暮らしぶりが、決して恵まれた生活ではなかったことは、容易に想像出来る。 薫はちょっと切なくなって、樹の頭をぽんっと撫でた。 「そっか。この青い海と白い建物のある島、見てみたいか?」 樹は、薫の顔を上目遣いにちらっと見て、また手元のページに視線を落とすと、指でその写真をそっと撫でる。 「……見て……みたい」 「よし。じゃあ、俺が社会人になって、デザイナーの夢を叶えたら、一番におまえを、この写真の場所に連れてってやるよ」 樹は顔をあげ、大きな目を更に見開いて薫を見た。 「まだまだ先の話だけどな」 「……え……俺……?……連れてって、くれるの……ここに……?」 「ああ。約束するよ。その為にも、俺は頑張って勉強しなくちゃな」 樹は何か言いたげに口をもごもごしたが、結局何も言わずに目を伏せ、本の写真をまたそっと撫でた。 樹はベッドの窓側に横になって、カーテンの隙間から見える夜空をぼーっと眺めた。隣にはすーすーと寝息をたてる薫。 そろそろ寝るか……とベッドに入るまで、薫はあの本を一緒に見ながら、いろいろな話を聞かせてくれた。 建築デザイナーになりたいと思うきっかけになった、あの建物のこと。将来、自分の力で実現したい夢の話。本に載っている建物が出来るまでの、いろいろなエピソードや、薫の感想。 知識のない樹には、難しい言葉も多くて、よく分からないこともあったが、夢を語る薫んの表情や口調が、とても熱っぽくて楽しそうで、樹はわくわくしながら話を聞いていた。 『俺がデザイナーの夢を叶えたら、一番におまえを、この写真の島に連れてってやるよ』 薫の言葉が、繰り返し繰り返し頭の中で響いている。最初は薫が何を言ってくれているのか、よく分からなかった。 だって……そんな夢みたいな約束、してくれるなんて、信じられない。 (……夢を叶えたら……僕を一番に……? ……ううん。やっぱりまだ信じらんない。そんなはず、ない)

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