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月の想い・星の願い5

義兄のカノジョさんー冴香さんは、すごく優しくていい人だと思う。いきなり会ってパニクって、あんな失礼な態度をしてしまった自分に、気を悪くもしないで、にこにこ笑いながら話しかけてくれた。 樹は自分のしてしまった態度にものすごく落ち込んで、余計にどうしていいか分からなくなっていたから、冴香さんにすごく助けられた。 でも……。 (……出来れば僕は、この人に会いたくなかった。玄関で冴香さんを見た瞬間、あの時の光景がぱっと頭に浮かんだんだ。 義兄さんに肩を抱き寄せられて、優しくキスされてるカノジョ。 義兄さんの「好きだよ……冴香」っていう甘い優しい声。 あの時、僕の胸の中に感じた、ズキっとするような痛み。 それを思い出しちゃったんだ。 僕は頭の中が真っ白になった。目がじわっと熱くなって、泣きたくなった。声を出そうとしたのに、どうしても出なかった せっかく義兄さんと2人きりで、穏やかで幸せな時間を過ごしてたのに、どうしてこの人が邪魔しに来るんだろう。 この人はいつだって、義兄さんと会える。2人きりで過ごせる。でも僕は、今度またいつこんな風に会えるか分からない。なのにどうして……) 樹の心の中に黒いもやもやが広がっていった。目の前の綺麗なカノジョ。義兄の気持ちを独り占め出来る。羨ましい……。妬ましい……。 でも、冴香さんは、優しい笑顔で話しかけてくれた。 樹ははっとして、心の中に広がっていく嫌な考えが、恥ずかしくなった。 (……邪魔なのは、この人じゃない。 僕の方が……僕の方が、邪魔者じゃん。 僕はやっぱり悪い子だ。みっともない。恥ずかしい) 「帰る」と言って飛び出そうとした樹を、薫は困り果てた顔で引き止めてくれた。 (……ごめんなさい……。ごめんなさい……。 義兄さんにそんな顔、させたい訳じゃない。でも僕はここにいたら、何を言い出すか分からない。混乱して変なこと言っちゃう前に、ここから逃げなくちゃ。 謝ったりしないでよ。悪いのは僕なんだから。僕が嫌がってるなんて言わないで。優しいあの人に聞こえちゃうよ。ああっもう。僕はサイテーだ。どうしたらいいんだろう) パニックになって逃げることしか考えられなくなっている樹に、冴香はすごく穏やかな声で言ってくれた。 「邪魔じゃない」「会えて嬉しい」 そして…… 「君がこのまま帰っちゃったら、薫はすごく哀しい気持ちになるわ」 樹は薫の顔をそっと見た。薫は心配そうな困った顔をしていた。 (……義兄さんにそんな顔、させたくない。哀しい気持ちにさせたくない) 樹はまだ、頭の中がぐちゃぐちゃだった。 本当はここから逃げ出してしまいたかった。でも、気持ちをぐっと押し殺して、黙って頷いた。

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