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月の想い・星の願い6

冴香に宥められて、樹は帰るのを何とか留まったが、あれからずっと元気がない。 最初は訳が分からなかった薫だが、今はあのサプライズが、樹にはちょっとした悪戯じゃ済まなかったのだと理解している。 牧先輩の店に連れて行った時、意外なほどあっさりと懐いていたから、薫は思い違いをしていた。樹はきっと極度の人見知りなんだろう。初めて会った時、えらくつんけんしていたのは、きっと緊張を隠す為の鎧だったのだ。 「ね。樹くんは、お肉とお魚、どっちが好き?」 冴香の質問に、樹はちらっと顔をあげて 「……どっちも……。好き嫌い、ない」 「そう、偉いわね。じゃあ、あの店の方がいいかな。ね、薫。前に連れてってくれた、駅裏の和食のお店のランチ。今日もやってるかしら」 「ん? ……ああ……どうかな。今日は日曜日だから、多分夜だけだろう」 「そっか。じゃ、アウトレットの方のバイキングのお店にしましょうか」 (……なるほど。あそこなら、野菜を使ったメニューも豊富で、食べ盛りの中学生を連れて行くのにぴったりだ) 「俺、別にどこでもいいし」 「うん。じゃあ、お姉さんに任せて。美味しくてお野菜もいっぱい食べられるとこ、連れてってあげる」 「よし。じゃあ、アウトレットの方に行くぞ」 樹は何かもごもごと呟いて、薫の顔をちらっと見てから、頷いてぷいっと目を逸らした。 郊外のアウトレットモールに向かう車の中でも、冴香は後部座席の樹にいろいろ話しかけていた。 1人っ子だった自分と違って、冴香には妹と弟がいる。たしか、末の弟は樹より2歳上なだけだ。だから年下の子供の相手には慣れている様子で、意外なくらい楽しそうだった。 樹はいつものように無表情で、話しかけられても、ぼそっぼそっと一言二言返すだけだったが、徐々に打ち解けてきたようで、薫は内心ほっと胸を撫で下ろしていた。 「じゃあ今から90分ね。お皿はあそこにあるから、食べたいものを取ってくるの。薫、荷物見ててくれる? 樹くんと先に行ってくるから」 「ああ」 冴香はちょっとはしゃいだ様子で、樹を連れて行ってしまった。バイキングブースで冴香に世話を焼かれながら、トングで料理を皿に盛り付けている樹の顔をそっと眺める。 相変わらず、何を考えているのか分からない無表情だが、突然帰ると言い出した時の、強ばった顔ではなくなっている。これから先、頻繁に遊びに来るようになれば、いつか冴香と会うことになるのだ。ちょっと唐突なやり方だったが、2人が仲良くしてくれる方がいい。 「お待ちどうさま。薫、あなたも行ってきて」 薫は冴香と樹に笑いかけると、席を立って料理を取りに行った。

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