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月の想い・星の願い7
樹は少しずつ取ってきた料理を、もくもくと食べて、今度は1人でまた料理を取りに行った。薫も少し遅れて樹の後を追う。
「樹、美味いか? ここの料理」
薫が後ろから話しかけると、樹はちょっとびっくりしたように振り返り
「……うん……美味い」
「どれが美味かった?」
樹は、薫と薫の持ってる皿を見比べてから、首を傾げ、とことこと歩き出す。後ろについていくと、副菜のコーナーで足を止め
「……これ。結構美味い」
樹が指さしたのは、切り干し大根やひじきの煮物といった惣菜だった。
「おまえ、好みが渋いなぁ」
薫が思わず笑うと、樹は顔を顰めて
「兄さんこそ、野菜とか食べなさすぎ。肉とか炭水化物ばっかじゃん」
おまえは俺のおふくろか?っと薫は思わず心の中で突っ込んだ。たしかに自分の皿の上は、ハンバーグだの唐揚げだのグラタンだのパスタだのピザだの、樹に指摘されたもののオンパレードだった。
「兄さん、結構好き嫌いあるよね。1人暮らしなんだから、もっと食べ物、気を付けた方がいいじゃん」
(……まったくもってごもっともだ。俺はもともと子供の頃から偏食だったが、家を出てからは特に、自分の好きなものばかり食べているっていう自覚はある。樹にこんなことを言われているようじゃ、どっちが大人か分からない)
「はいはい。お母さん」
薫が照れ隠しに茶化しながらトングに手を伸ばすと、樹は顰めっ面のまま手を追い払い、薫の皿に惣菜を数種類てんこ盛りにしてくれた。
食事を終えて、ちょっと買い物してくるという冴香と別れて、薫と樹は店内のソファーに腰をおろした。
冴香は、樹に何か服を選んでやりたいと誘っていたが、樹は頑なに拒絶して、結局薫と一緒に残った。
「美味かったか?」
薫が話しかけると、樹はちらっと薫を見てから、自分の腹をさすった。
「……うん。腹、いっぱい」
そりゃそうだろう。最初、食事を奢られること自体、遠慮していた樹だったが、90分間食べ放題で、食べても食べなくても同じ値段だと冴香に教えられると、今度はムキになってお代わりをしていた。ひと通り全制覇する勢いで、大きな皿に2回お代わりを取ってきて、更にデザートもほぼ全種類盛ってきて、冴香のおしゃべりに無愛想に返事しながら、もくもくと食べていた。
この細い身体のどこに、あんなに入るんだと、薫は感心していたのだ。
「おまえ、痩せの大食いだな」
「同じお金取られるんなら、食わないと損じゃん」
「まあ、たしかにそうだな」
帰るというのを引き止めて、食事に行こうと誘った時の、樹のなんだか諦めたような表情が、薫は気になっていたのだが、今はもうすっかりいつも通りだ。
「今日は付き合わせて悪かったな」
薫がそう言うと、樹はぷいっと目を逸らして
「俺の方こそ、邪魔じゃねえの? これって、デートだろ」
「いーや。邪魔なもんか。おまえと冴香が仲良くしてくれたら、俺はすごく嬉しいよ」
「……ふうん……」
「樹、いつかおまえにもカノジョが出来たら、一番に俺に紹介しろよ」
何の気なしに言った一言に、樹はばっと顔をあげ、薫を睨みつけた。
「……しない。紹介なんか」
「どうしてだよ? 一緒に遊びに連れていってやるぞ」
笑いながら、薫が頭をぽんっと撫でようとすると、樹はすごく嫌な顔をして、その手を避けて立ち上がり
「トイレ行ってくるっ」
怒ったような声でそう言い捨てて、スタスタと洗面所に行ってしまった。
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