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雨夜の月8
「うん。そうですね。そういうことになっちゃうかな。だったらね、藤堂薫さん。君が樹くんを守ってあげてください。樹くんの置かれてる現状を、理解してあげてください。何故彼が夜遊びして、不良に絡まれるようなことになるのか、もっときちんと考えてみてください」
月城はこれまでの穏やかな顔をガラリと変えて、すごく真剣な厳しい表情になり
「大切な弟を守りたいというなら、まずはもっと樹くんのことを知る努力をした方がいい。それが出来るのは、もしかしたら君だけかもしれないんだから」
薫は呆れ果てた気分で、月城の顔をまじまじと見つめた。
(……こいつ……何を言ってるんだ?
さっきから訳の分からないことほざきやがって。自分の置かれてる立場が分かってるのか?)
「余計なお世話だ。樹のことは俺が守る。あんたに言われることじゃない。とにかく、今後いっさい樹に近寄るな」
これ以上、こいつと話しても、まともな会話にならない。ただ樹を傷つけるだけだ。
薫は吐き捨てるようにそう言って、立ち上がろうとした。
……が、樹が腕にしがみついたまま、動かない。
「樹、もう行くぞ。帰ろう」
石のように動かない樹を、揺すりながら促すと、向かいの月城が立ち上がった。テーブルの上の伝票を取って
「僕の方が帰りますよ。パフェがまだ残ってるから」
そう言うと、さっさと出口に歩き出す。
「あ、おい、待てよ。伝票は置いていけ。あんたに払ってもらう筋合いなんかないからな」
薫の言葉に、月城はくるっと振り返り
「樹くんの話を聞いてあげてください。お願いします」
そう言って、呆気に取られている薫に頭をさげると、すたすたと会計に行ってしまった。
(……どうしよう……。義兄さん。すっごい怒ってる……よね)
月城が先に帰ってしまっても、薫はずっと黙りこくっている。
樹はそっと薫の腕から離れると、アイスが溶けてどんどん崩れていくパフェを、泣きたい気持ちで見つめた。
義兄のあまりの剣幕に、びっくりして、押し切られてここに来てしまったが、やっぱり絶対に嫌だと言うべきだったのだ。自分が苦し紛れについた嘘が、どんどん大きくなって、月城まで巻き込んでしまった。この身体の跡をつけたのは、月城ではなかったのに。
(……ほんとにもう、どうしていいか分からない。
僕が全部悪いんだ。
僕なんか……いなくなっちゃった方がいいのかもしれない)
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