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雨夜の月7

薫が声をかけると、樹は俯いたまま黙って頷き、スプーンを握り直した。薫は再び月城を睨みつけ 「樹がいくつかご存知ですか」 「うん。13才。たしか中学2年生、だよね」 「そうですね。あなたより11も年下の、まだ子供です」 薫はぎゅっと拳を握り締めた。 「樹にあなたとの関係を問い詰めたら、恋人だと言った。おかしいですよね。樹は子供で男の子だ。友人というのも無理があるのに、恋人って」 「兄さん、違う。俺、そんなこと、言ってない」 隣から樹が弱々しい声で割り込んできたが、薫は無視した。 「あなたは、同性愛者ですか?しかも少年愛者なのか?」 だんだん口調がきつくなっている自覚はあったが、月城が平然としているのが無性にムカついて、逆に冷静でいられなくなっていた。 「そうですね。僕は多分、同性愛者だと思いますよ。でもショタコンとかペドフィリアとは違うかな。今まで好きになったのは、僕より年上の人だったからね」 「だったら何故、樹に手を出した? 樹の身体についていた跡はなんだ? あれはあんたが」 「兄さん……っ」 樹はスプーンを放り出し、薫の腕にしがみついた。 「声、大きいしっ。それに、違うから、俺は……っ」 樹の悲痛な声に、薫ははっとして口を噤んだ。自分でも知らないうちに、声がかなり大きくなっていたらしい。まばらにいる他の客席の人間が、何事かという顔でちらちらこっちを見ている。横を見ると、腕を掴んだ樹が、目をぎゅっと瞑って、苦しそうに顔を歪めていた。 (……落ち着け。樹を傷つけてどうするんだ) 薫はぐっと怒りを抑えて、樹の手をそっとさすった。 「やっぱり僕のマンションに来てもらった方がよかったかな。こういう所で出来る話じゃなかったよね」 月城が呟く声が聞こえた。 薫ももちろんそうするつもりだったのだ。 さっきの電話で、薫は月城に、どこか人に話を聞かれない所で会いたいと言った。月城が、だったら自分のマンションにと言うと、樹が泣きそうな声でそれは嫌だと抵抗した。 月城のマンションだけは、絶対に嫌だと。 でも、話の内容が内容だ。やっぱり場所を移動した方がいいかもしれない。 「僕が何を言っても、君は納得しないと思う。ただ……僕は、樹くんのことが大好きですよ。心から愛おしいと思うし、僕に出来る限りは守ってあげたいと思ってる」 薫は月城の顔を睨みつけた。 まだ恋すらしたこともないような樹に、自分の歪んだ欲望を押し付けて、おかしな道に引き込もうとしているこの男が、樹を愛おしいとか守ってあげたいとか、いったいどの口で言うんだ。 「ふざけるなよ。樹はまだ親の保護が必要な未成年の子供だ。あんたがどんなつもりで樹に関わってるのか知らないが、これ以上樹にちょっかい出してみろ。警察に行くからな」

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