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雨夜の月6
樹は不安そうな顔で、自分と月城を見比べながら、大きなパフェを恐る恐る食べている。
予想していたよりデカくて、上にチョコのケーキやらプリンまで乗っかっているそれを、スプーンでつついている姿はいつもより幼くて、樹がまだ中学生なんだということを改めて実感していた。こんな少年に、目の前の男は、あんな跡をつけるような行為をしていたのか。
実際に会ってみて、イメージしていたより真面目で落ち着いた雰囲気の月城という男に、薫は若干面食らっていた。車でここに向かう時は、会ったらいきなり怒鳴ってやろう、ぐらいの勢いだったのだが、ちょっと拍子抜けしていたのだ。
でも、樹の子供らしい姿を見ていると、引っ込んでいた怒りが、またフツフツと沸き起こってきた。
月城は、パフェを食べている樹の顔を、穏やかな表情で見つめている。
こいつはなんでそんなに余裕なんだ?中学生の弟をたぶらかしたと、その兄が文句を言いにきているのに。よほど鈍感なのか、それともこういったことに慣れた遊び人なのか。
「月城さん。あなたは社会人ですか?」
(……落ち着けよ。まずはこいつから、いろいろ聞き出さないと。かっかするな。冷静にだ)
薫の質問に、月城は樹から視線をこちらに向けて、首を傾げた。
「樹くんから、何もお聞きになってませんか?」
樹が食べるのを止めて、なんだか切ない顔で、こちらを見ている。
「ええ。あなたのことは、今日、樹から聞いたので」
「そう……。僕は一応、社会人ですよ。父が経営する塾で働いてます」
「え……」
薫が反応するより先に、樹が声をあげた。見ると、きょとんとした顔で月城を見て、口をもごもごさせている。薫が視線に気づくと、ぱちぱちと瞬きしてから、慌てたように目を逸らした。
「塾の……。講師ですか?」
「うん。講師もやってますよ。非常勤だけどね。父の手伝いも兼ねてるから、雑用係的な仕事が多いかな」
「……失礼ですが、年はおいくつですか?」
「24です」
(……ってことは俺より3つ上か。同い年ぐらいに見えたが、案外年くってるな。しかも……塾の講師や経営の手伝いって。意外に堅い仕事なんじゃないのか)
自分の中で勝手に思い描いていた月城の人物像が、質問する度にがらがらと崩れていく。
(……いや。父親が経営者って事は、要するに金持ちのぼんぼんで、仕事手伝ってるなんて言っても形だけで、普段は遊び回ってるだけかもしれないだろ)
「他にご質問は?」
考え込んでしまった薫に、月城は微笑みながら促す。
(……だからなんでこいつは、こんなに余裕かましてるんだよ)
薫は込み上げてくるいらいらをぐっと抑え込み
「樹とは、いつどんな風に知り合ったんですかね」
月城は、樹の方をちらっと見てから
「今年の5月頃かな。夜遊びしていた樹くんが、不良に絡まれていたのを助けたんです。ちょっと怪我もしてたんで、僕のマンションに連れて帰った。それが馴れ初めかな」
薫は傍らの樹をちらっと見た。樹はすっかり食べるのを止めて、俯いている。
「樹。早く食べろ。溶けてドロドロになるぞ」
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