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雨夜の月5
気まずい沈黙を破って、月城が口を開いた。
「樹くんから、あなたのお話はうかがってました。お会い出来て嬉しいな」
「……」
薫はちらっと樹を見てから、硬い表情のまま、もう1度月城の方に顔を向けた。月城は穏やかに微笑んで
「それで……樹くん。電話ではちょっと分かりにくかったんだけどね。お義兄さんに、君と僕の関係について、説明すればいいのかな?」
「あっ。ええと……」
「そのことについては、俺の方から質問します。樹、おまえは喋らなくていい」
樹が口を開きかけると、薫はぴしゃりと遮った。
(……怖い。
やっぱり義兄さん、怒ってる)
樹は隣から立ち上がる黒いオーラを感じて、きゅっと首を竦めて黙り込んだ。
「話の前に、何か頼みましょうか」
月城は、薫のオーラにまったく動じていない様子で、横に立てかけてあるメニューを広げてみせて
「樹くん。君、何か甘いものでも頼もうか? パフェとか」
(……いやいやいや。そんなもの、こんな雰囲気の中で食べられるわけないし)
樹はぶんぶん首を振って、薫の横顔をちらっと見た。薫は相変わらずムスッとしている。
「俺……ドリンクバー……で……いいです」
「そう? 遠慮しなくていいのにな。あ。お義兄さんは、何にします?」
「では、チョコパフェとドリンクバーで」
樹はびっくりして、思わず薫の横顔を2度見した。
(……わ……。ここで今、チョコパフェとか食べるんだ……)
「じゃあ、店員を呼ぶよ」
月城は一向に気にせず、にこっと笑って、テーブルの端のベルを押した。
店員にチョコパフェとドリンクバー2つを注文すると、薫は立ち上がって
「樹。何がいい」
「あ……あ、えと……」
樹も思わず立ち上がった。
何がいいと言われても、どんなのがあるのか分からない。
「取ってきてやる。あ……いや、一緒に行くか?」
「うん」
樹は頷いて、薫の後をついてドリンクバーのコーナーに行った。
薫がホットコーヒーを注いでる横で、樹はあれこれ悩んで、アイスココアをグラスに注いだ。薫は何か言いたそうに樹のことを見ていたが、結局何も言わずに、2人一緒に席に戻った。
飲み物を目の前にして、また気まずい沈黙が続く。
樹はグラスを両手で掴んで、アイスココアを飲みながら、月城と薫の顔を、そっと盗み見していた。
「お待たせしました。チョコレートパフェのお客さま」
店員がパフェを持ってやってきた。樹が薫の顔を見ると、薫は樹の方を指差して
「こっちに」
店員が頷いて、樹の前にパフェを置いて去っていく。樹はびっくりして、薫の顔を見つめた。
「え……俺? だってこれ、義兄さんが……」
「俺は甘い物は食べない。おまえ、好きだろ。食べろよ」
樹は薫とパフェを見比べた。
(……そっか……。これ、最初から僕の為に頼んでくれたんだ)
こんなに怖い顔をして怒っているのに、薫はやっぱり優しい。樹が遠慮してるって思って、気を回してくれたのだ。
「……ありがと……」
樹が小さな声でお礼を言うと、薫はちょっとだけ柔らかい表情になって、頷いてくれた。
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