111 / 448
雨夜の月4
義兄が僕の肩をガシッと掴んで、怖い顔で詰め寄ってくる。
(……どうしよう……。やっぱり嘘だってバレてしまった)
そんなことを思ってる場合じゃないのに、義兄の恰好いい顔がすぐ目の前にあって、樹はまたパニックになっていた。
(……ああっもう、なんだか頭ん中ぐちゃぐちゃだしっ。心臓ドキドキし過ぎて壊れちゃうよっ。頼むから兄さん、離れてっ)
「月城って男のこと、おまえ好きなのか? そいつと付き合っているのか?」
「……っそ、そうだよっ。兄さんの言う通りだよ! だからもういいじゃん。手、離してよっ」
樹はやけっぱちでそう叫ぶと、薫の手を引き剥がした。
「…………」
薫は両手をまだ中途半端にあげたまま、樹を見て黙り込んだ。
(……え。なんだろ。ものすごいショック受けたみたいな顔してる。あれ……? 待って。俺、今、何て言ったんだっけ。っていうか、今、義兄さん、何て言った?
月城さんのこと、俺が好き? 付き合ってる?
……義兄さん……今……そう言った?)
樹は思わず息を飲んだ。
(……違う。そうじゃない。僕は月城さんじゃなくて、義兄さんのことを……)
「違うっ。兄さん、今のなしだからっ。月城さんは、関係な」
「だとしたら、余計に会いたいな。月城さんに。樹。今そいつと連絡取れるか?」
薫は険しい顔で樹を睨んで、唸るようにそう言った。
「兄さん。やっぱ、もう帰ろう。俺……嫌だよ」
「ここまで来て、何言ってるんだ。ほら、降りろよ」
薫は車の中でも、樹のお願いに全然耳をかさなかった。車を降りてファミレスに入ったら、そこには月城がいる。会わせたくないのに。
薫はいつになく強引だった。月城さんの連絡先を教えろとしつこく聞いてきて、樹が嫌だと言ったら、実家に電話して母さんに相談すると言い出した。未成年のそれもまだ中学生に、社会人の月城がおかしな事をしているのなら、それは犯罪だから訴えると怒り出した。
樹はなんとか言い訳しようとしたが、母に相談したりしたら、月城が叔父の助手だってことがバレてしまうかもしれない。
もうどうしたらいいのかわからなくなって、樹はトイレに逃げ込んで、月城の携帯電話にメールを送った。
焦りすぎてめちゃくちゃな文章で、月城に助けてって送ったら、月城からすぐに返事がきた。
ーわかった。じゃあ、今日の夕方、君のお義兄さんに会うよ。僕は君の恋人ってことでいいんだね。とりあえず、お義兄さんの前で僕に電話しておいで。上手く対応してあげるから。
あの支離滅裂なメールを、月城はちゃんと分かってくれたみたいだった。
「初めまして。月城です。先程はお電話で失礼致しました」
「いや。こちらこそ急なお願いに都合つけてもらって」
先に来ていた月城の席に、樹がいやいや薫を連れて行くと、月城はすぐに気づいて、にこっと笑った。普段は綺麗系のカジュアルな服装なのに、今日は上下スーツを着ていて、いつもより大人っぽく見える。
立ち上がってにこやかに挨拶する月城に、薫はちょっと戸惑っているようだった。
席をすすめられて、樹は薫と並んで、月城の向かい側に腰をおろした。
(……正直、今すぐ逃げ出したい。なんでこんなことになっちゃってるのか、わかんない)
ともだちにシェアしよう!