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雨夜の月4

義兄が僕の肩をガシッと掴んで、怖い顔で詰め寄ってくる。 (……どうしよう……。やっぱり嘘だってバレてしまった) そんなことを思ってる場合じゃないのに、義兄の恰好いい顔がすぐ目の前にあって、樹はまたパニックになっていた。 (……ああっもう、なんだか頭ん中ぐちゃぐちゃだしっ。心臓ドキドキし過ぎて壊れちゃうよっ。頼むから兄さん、離れてっ) 「月城って男のこと、おまえ好きなのか? そいつと付き合っているのか?」 「……っそ、そうだよっ。兄さんの言う通りだよ! だからもういいじゃん。手、離してよっ」 樹はやけっぱちでそう叫ぶと、薫の手を引き剥がした。 「…………」 薫は両手をまだ中途半端にあげたまま、樹を見て黙り込んだ。 (……え。なんだろ。ものすごいショック受けたみたいな顔してる。あれ……? 待って。俺、今、何て言ったんだっけ。っていうか、今、義兄さん、何て言った? 月城さんのこと、俺が好き? 付き合ってる? ……義兄さん……今……そう言った?) 樹は思わず息を飲んだ。 (……違う。そうじゃない。僕は月城さんじゃなくて、義兄さんのことを……) 「違うっ。兄さん、今のなしだからっ。月城さんは、関係な」 「だとしたら、余計に会いたいな。月城さんに。樹。今そいつと連絡取れるか?」 薫は険しい顔で樹を睨んで、唸るようにそう言った。 「兄さん。やっぱ、もう帰ろう。俺……嫌だよ」 「ここまで来て、何言ってるんだ。ほら、降りろよ」 薫は車の中でも、樹のお願いに全然耳をかさなかった。車を降りてファミレスに入ったら、そこには月城がいる。会わせたくないのに。 薫はいつになく強引だった。月城さんの連絡先を教えろとしつこく聞いてきて、樹が嫌だと言ったら、実家に電話して母さんに相談すると言い出した。未成年のそれもまだ中学生に、社会人の月城がおかしな事をしているのなら、それは犯罪だから訴えると怒り出した。 樹はなんとか言い訳しようとしたが、母に相談したりしたら、月城が叔父の助手だってことがバレてしまうかもしれない。 もうどうしたらいいのかわからなくなって、樹はトイレに逃げ込んで、月城の携帯電話にメールを送った。 焦りすぎてめちゃくちゃな文章で、月城に助けてって送ったら、月城からすぐに返事がきた。 ーわかった。じゃあ、今日の夕方、君のお義兄さんに会うよ。僕は君の恋人ってことでいいんだね。とりあえず、お義兄さんの前で僕に電話しておいで。上手く対応してあげるから。 あの支離滅裂なメールを、月城はちゃんと分かってくれたみたいだった。 「初めまして。月城です。先程はお電話で失礼致しました」 「いや。こちらこそ急なお願いに都合つけてもらって」 先に来ていた月城の席に、樹がいやいや薫を連れて行くと、月城はすぐに気づいて、にこっと笑った。普段は綺麗系のカジュアルな服装なのに、今日は上下スーツを着ていて、いつもより大人っぽく見える。 立ち上がってにこやかに挨拶する月城に、薫はちょっと戸惑っているようだった。 席をすすめられて、樹は薫と並んで、月城の向かい側に腰をおろした。 (……正直、今すぐ逃げ出したい。なんでこんなことになっちゃってるのか、わかんない)

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