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君という光6
「ほら。スペシャルブレンドだ」
奥のテーブル席で両手をテーブルにつき俯いていた薫は、牧の声でハッと顔をあげた。
牧はトレーに2人分の珈琲を乗せて近づいてくる。薫は無理やり微笑んでみせた。
「あ……ああ、すみません。いい香りだ」
牧は珈琲を薫の前に置いて、向かいの椅子に座ると
「いつもよりちょっと濃い目にしたぞ。まずはそれ飲んで気持ちを落ち着けろよ」
「……ありがとうございます」
薫はカップを持ち上げ、珈琲の香りをかいでみる。豆の選び方から焙煎の仕方、保存までこだわりにこだわった牧の珈琲は、他ではなかなか味わえない独特の深みのある香りがする。ひと口啜って、カップを置き、薫は大きく深呼吸した。
「すみません。さっきは取り乱しました」
「まあ、無理もないさ。これまで全くの音信不通だったんだな」
「はい。……樹は……ずっと海外にいるのだと」
「3年前に帰国して、東京の方にいたそうだ。こっちに戻って来たのは半年ほど前らしい」
薫は大きく目を見張った。
「半年……そんな……前から……」
「と言っても、こっちにはほとんどいないで東京とこっちを行ったり来たりの生活だったそうだ。ここに顔を出したのは、そろそろこっちに落ち着くからって話だった」
そんなに前から、樹はこの仙台にいたのか。
住んでいる場所は何処だろう。どこかアパートを借りて?それともあの家に?
「叔父さんも……、一緒ですか?」
「いや。ここに来た時も1人でぶらっとな。マンションを買って1人で住んでいるんだと言っていた」
「……1人で……」
……あの叔父と一緒ではないのか。マンションを買って……?
樹は自分より8つ下だから今22歳だ。もう仕事をしているのだろうか。マンションを借りるのではなく買って…ということは、それなりの生活が出来ているのか。
「最初、店に入ってきた時は気づかなかったんだ。随分と印象が変わってしまってたからな」
「ど、どんな、風に?」
思わず身を乗り出すと、ちょっと痛ましげな牧と目が合った。
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