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光射す午後に2
冴香はこちらの手をきゅっと握り返してきた。
「この仕事をする限り、何処に行ってもそんなに変わりはないわ。実力をつけて誰にも文句は言わせないレベルになるまではね」
冴香はさっきの少し気弱な笑みを消して、意思の強そうな眼差しでこちらを見つめてくる。
負けず嫌いの頑張り屋なのだ、彼女は。だからどんな事でも影でコツコツと努力を重ねる。
冴香のこういう所が、自分は好きだと思う。
どうしようもなく恋に堕ちた相手は他にいた。
冴香と再会した後、抜け殻のようになっていた自分は、たぶん冴香に最初の頃のような激しい恋心は抱いていない。でも、人として、尊敬している。
人生のパートナーとして、冴香のことは大切にしたいし感謝もしている。
彼女のこの輝くような眼差しに、闇底でもがいていたあの頃の自分は救われたのだから。
「そろそろ買い物に行くかい?」
「うん、そうね。遅くなっちゃうと夕飯作るの億劫になるかな」
「何か食べて帰ってもいいよ。君も明日は朝早いんだし」
冴香は、フォークの先でいじっていたケーキの残りをぱくんっと口に入れると、紅茶で流し込んで
「ありがとう。でも今夜は作ってみたいレシピがあるのよ。あなたはきっと、好きな味」
「へえ。それは楽しみだな。じゃあ行こう」
薫は伝票を手に立ち上がった。
1階の広い食品専用フロアの前で、買い物用のカートを押した冴香と別れた。
自分は食料品の買い物にはまったく興味がないし、冴香も自分が一緒について回るのは好きじゃないようだ。昔、付き合っていた頃からそうだった。荷物持ちなら、カートがしてくれる。
このショッピングモールには、大きな書店が入っている。
先日行きそびれた街中の本屋の代わりに、専門書を探しに行ってみよう。
薫は、広い通路の脇に立ち並ぶ店をぷらぷらと眺めながら、食品フロアとは反対側の奥へと歩いて行った。
突き当たり、一番奥の書店の手前にエスカレーターがある。そこを昇ると映画館の同じ階にアミューズメントパークとボウリング場がある。
薫は足を止め、ふと上を見上げた。
このボウリング場には思い出がある。一度だけ、樹と一緒に遊んだ場所だ。
冴香と結婚するまで、このモール自体に薫は近寄らなかった。一緒に映画を観たり買い物に来ても、奥のこのエリアには足を向けないようにしていた。周りのテナントはかつてとは違う店舗が入っているが、上のボウリング場は今も営業しているようだ。
薫はふいっと目を逸らし、書店の方に歩き出した。その目の端に白い服がちらりと映る。
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