362 / 448
愛しさの先にあるもの5
初老の男、加賀見善哉が樹を抱き寄せながら先を行き、配下の男たちに囲まれるように和臣と月城が後に続いた。
後ろで大きな鉄門扉がまた音もなく閉じると、捕らわれの身の立場をひしひしと感じる。
月城は改めて表情を引き締めた。
これまでも何度も修羅場はくぐり抜けてきている。今回も同じだ。自分が成すべきことをするだけだ。
玄関ドアから中に入るとすぐに、配下の男たちに所持品をチェックされその場で軽くボディチェックをされて、財布やスマホなどは取り上げられた。
「悪く思わないでください。お帰りの際にはお返しします」
月城はサングラスの男をじろっと睨みつけた。
取り上げられてまずいものは、そもそも持ってきてはいない。和臣にはスマホは持ってこないように言って、連絡用のスマホだけ渡している。自分も同様だった。
スマホは情報の宝庫だ。敵の手に渡ればこちらのことは全て筒抜けになる。
屋敷の中は、外観からの印象を裏切らない和洋折衷の瀟洒な造りだった。ここが加賀見自身の所有なのかは分からないが、重厚かつシンプルな内装、調度品などの趣味は悪くない。
エントランスから2階へと左右にアール型に分かれて伸びる屋敷中央の大階段を、加賀見と樹が先にあがっていく。
加賀見が樹に何か囁き、樹はそれに答えているようだが、少し離れて歩いているこちらの耳には、内容までは入ってこなかった。
正面の踊り場から向かって左側に弧を描いて伸びる階段を2階まであがり、その先の廊下をしばらく歩く。
突き当たりのドアの前には、やはり黒スーツの男が2人控えていて、加賀見の姿を見ると静かにドアを開けた。
加賀見と樹に続いて中に足を踏み入れる。ここは客を招き入れる為の応接ルームのひとつらしい。
ざっと見て40畳はある広さの室内は、ダークブラウンの家具や調度品で統一されていて、中央に座り心地の良さそうな大きな応接セットが置かれているだけだ。
バルコニーに続く大きなガラス張りのドアからは、明るい陽射しが射し込んでいる。セキュリティの点でいえば、少し開けっぴろげ過ぎるが、見た目には分からない最新のセキュリティシステムがあるのかもしれない。
「さ。掛けたまえ」
加賀見は鷹揚な態度でソファーを指し示すと、樹の肩を抱いたままで、自分は向かいのソファーに腰をおろした。
月城は和臣と一緒にソファーに腰をおろすと、ようやく正面から樹の顔を見た。
樹は加賀見にぴったりと寄り添うように座り、俯いている。目は完全に伏せられていて、こちらを見ようとはしなかった。
ともだちにシェアしよう!