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愛しさの先にあるもの6

「それで、藤堂薫さんは何処です」 いつまでも切り出そうとしない樹を訝しみながら、月城は口を開いた。 「まあ、待ちなさい。今、屋敷の者に伝えて、こちらに向かわせている」 妙に笑い含みの声を出す加賀見を睨みつけていて、月城は気づいた。 樹は切り出そうとしないのではなく、出来ないのだ。加賀見の右腕が樹の服の中に潜り込んでいる。よく見ると樹の頬がうっすらと紅い。服の裾から潜り込んだ加賀見の指が、樹の胸の辺りで蠢いていた。 月城は眉を顰め、したり顔の加賀見を睨めつけた。 この好色な変態じじいは、樹の弱みを握ったのをいいことに、やりたい放題だ。 樹の身体が、ぴくんっと微かに震えた。 きつく眉を寄せ唇を引き結び、加賀見の悪戯から逃れようと身を捩っている。 加賀見は目をこちらに向けたまま、樹の耳に口を寄せ何か囁いた。樹はうっすらと目を開け、いやいやをするように首を横に振る。 ……下衆め。どこまで人を辱めるつもりだ。 月城はぎゅっと拳を握り締めた。 ……ダメだ。落ち着け。 今、怒りに任せて余計なことをすれば、藤堂薫は助け出せない。それどころか、樹も和臣の身も危うくなる。 「おっさん。いい加減にしろよ」 不意に、隣にいる和臣が、低く呻くように呟いた。 「わざわざ人の目の前で嬲ることねえだろ。その手、離せよ」 「和臣くんっ」 焦って黙らせようとする月城を、和臣は鋭い目をして睨みつけ 「どうせ別室で好きなだけ嬲るつもりなんだろ?だったらまずは藤堂薫の無事な姿を見せてからにしろよ」 「和臣くん、ダメっ」 樹が悲鳴のような声をあげる。 月城は和臣に飛びかかって、その口を塞いだ。 嫌な沈黙が室内に流れる。 冷や汗が出た。いくら先方からの要求でも、和臣を連れてきたのは失敗だった。 この跳ねっ返りは約束を守る気などないのだ。 「ふん。面白いな」 加賀見が口を開いた。 「なるほど。大人しくて従順な仔猫もいいが、多少やんちゃな方が躾のし甲斐がある。久我くんがご執心なのも分かる気がするな。……おい」 加賀見は部屋の隅に控えている黒服に合図した。足音もさせずに黒服が2人、加賀見の元へ歩み寄る。 「脱がせろ。私にあんな口をきいたのだ。どれほどの器量か、確かめてやる」 「加賀見さん、お願いです。彼には手を出さないって」 必死に縋り付く樹を、加賀見は笑いながら膝の上に抱えあげ 「挑発したのはあの子の方だ。いいからおまえは黙って見ていなさい」 黒服がこちらに近づいてきた。月城は和臣の口を手で塞いだまま、庇うように抱き込む。だが、和臣は腕の中で暴れ、首を振って月城の手を払い除けると立ち上がり 「脱ぎゃいいんだろ?おまえらの手なんか借りねえよ!」 言いながら、潔くバサッと上着を脱ぎ捨てた。

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