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終わりの始まり2

高校の授業が終わるとバイトか塾。どちらもない日は、図書館や街のカフェでひたすら受験勉強。 そんな風に薫の高校最後の1年は、慌ただしく過ぎていった。 家には寝に帰るだけのような日々の中、家にひょっこりやってきた、目だけ大きい痩せっぽっちの少年の存在など、ほとんど忘れかけていた。 新しい家族3人は、上手くいっているようだった。義母は父よりひと回り以上若い綺麗な女だったが、浮ついたところがなく、よく気のつく優しい人で、気難しい父も再婚してからは、穏やかな笑顔を見せることが多くなった。 だが、薫は新しい家族には馴染めなかった。 いや。馴染まないように距離を置いていた。 病弱ではあったが、朗らかで優しかった母。その母が作ってくれた家庭の面影が、どんどん消えてしまうようで哀しかった。自分だけは新しい家族に馴染まないことで、亡くなった母の痕跡を残しておきたかったのだ。 ひたすら猛勉強したおかげで、目指す大学には無事に合格できた。 大学は家から通える距離だったが、出来れば家を出たかった。その為にバイトして資金も稼いでいたのだが、まだまだ足りない。かと言って、一人暮らしにはいい顔をしない父に、その資金を出してもらうのも嫌で、大学1年の間は家から通学し、勉強のかたわら必死にバイトして金を貯めた。 2年にあがると同時に、大学の近くのアパートで一人暮らしを始めた。 父は最後まで難色を示していたが、ちょうど義母のお腹に子供が出来て、薫と家族の間にますます溝が生じていたこともあり、渋々承知してくれた。 こうして、息の詰まるようなあの家から抜け出せた薫は、新しい自分の城での生活を、伸び伸びと楽しんでいた。 あの家に残された義弟の樹が、父と義母の間に子供が出来たせいで、どんな思いをしていたかなんて……その時は考えもしなかった。 教養課程を終え3年にあがると、薫はそれまで掛け持ちでやっていたコンビニと飲食店のバイトを辞めて、念願のアトリエ事務所のバイトを始めた。独学で勉強はしていたが、まだ専門課程をかじったばかりの学生だから、もちろん最初は雑用ばかりだ。でも、憧れの仕事に1歩近づけた喜びは大きかった。

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