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第2章.朔1

「なあなあ、今回こそおまえも来いよ。じゃねえと、俺、女子たちから袋叩き」 校内のブックカフェで専門誌を見ながらコーヒーを飲んでいると、悠貴がやってきて隣のソファーにどさっと腰をおろした。相変わらず洒落た服をさり気なく着こなして、カフェ中の女子の熱い眼差しを浴びている。 薫は首を竦めて 「今日は午後からバイトだ。俺は忙しいんだよ」 「つれないこと言うなよ~。おまえ、1度も俺の誘いに乗ったことないぜ。たまには付き合え。今回はおまえ目当ての女子が多いんだよ」 薫は首を横に振り 「悪いが、今回も無理だな。他のヤツを誘えよ。土岐田辺りはどうだ。あいつなら女子も納得だろう?」 悠貴はため息をついて 「あいつは今日は、本命彼女とデート。ったく……どいつもこいつも付き合い悪いっての」 「だったらおまえ1人で全員相手してろよ。そういうの、得意だろ。俺みたいな口下手が行くより、その方が女子も盛り上がるだろうが」 悠貴は恨めしそうな顔で薫を睨んだ。 「薫……おまえ、自分がモテてるって自覚ないねえ。じゃあさ、いつだったら空いてるんだ? おまえの都合に合わせてセッティングするからさ。マジで1回参加してくれよ」 意外と真剣に食い下がってくる悠貴の言葉に、薫はシステム手帳を鞄から取り出して予定表を眺めた。 午後の講義がない日は、大抵バイトを入れている。予定のない日も、資格試験の勉強にあてているから、空いているのは…… 「来週の金曜日。今のところ、空いているのはそこだけだな」 その日は父親から家族の食事会に誘われていた。どうせ行く気はなかったから、悠貴の誘いに応じれば、父親の方を断わるいい口実になるだろう。 悠貴はがばっと身を乗り出し 「来週の金曜日な。OK。じゃあその日でセッティングする。絶対空けておけよ。ドタキャンはなしだぜ」 「わかったわかった。おまえ、声が大きいって」 口に人差し指をあててみせる薫に、悠貴はちらっと周りを見て首を竦め、立ち上がった。 「じゃあな」 騒々しいのがいなくなり、また静けさを取り戻したカフェの中で、薫は冷めてしまったコーヒーを啜りながら、内心ため息をついた。 父からの誘いを断るのはもう何度目だろう。家を出てからほとんど帰っていない。年の離れた異母妹が生まれてから、ますます彼らとは疎遠になっていた。もうあの家に、自分の居場所はないのだ。
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