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朔4
「そうか。同じ高校だったんだ」
薫の出身校は、隣同士だった昔の男子高と女子高が合併して共学になった高校だ。広い敷地に別々の校舎があって、同じクラスにでもならない限り、3年間ほとんど顔を合わせない同級生もたくさんいる。
「ごめん。覚えてなくて」
冴香は笑いながら首を横にふり
「気にしないで。覚えてなくて当然だもの。でも……私は藤堂くんのこと、あの頃からいいなって思ってた。告白する勇気はなかったけど」
冴香の突然の告白に、薫は戸惑って返す言葉を探して黙り込んだ。冴香は気を取り直すように微笑んで
「あ。ごめんなさい。突然変なこと言って。……迷惑だった?」
「いや。迷惑ってわけじゃない。ただ……唐突すぎてびっくりしたかな」
冴香はあははっと笑って
「そうよね。あーあ。突然何言っちゃってるんだろう~。自分で自分にびっくりだわ」
ちょっと困惑気味だった薫は、なんのてらいもなく楽しそうに笑う彼女の表情に、思わず見とれた。彼女冴香の笑顔には邪気がない。なんというか……すごく素朴で素直だった。薫は変に身構えてしまっている自分が、急に恥ずかしくなってきて
「とりあえず、付き合うっていうのは、まだよく分からないんだ。俺は君のことを知らないからな」
「そうよね。じゃあまず、私とお知り合いになってくれる?」
その言い方が可笑しくて、薫は思わず声をあげて笑った。
「お知り合いからってのは、何だか変な言い方だよな。まずはお友達から、でいいんじゃないか?」
「あ……。そうよね。うん、お友達からよね。もう……嫌だなぁ。私、ちょっと酔ってるのかも。……ううん、なんだろ。柄にもなく緊張してるのかな」
そう言って、顔を赤らめ頬に手をあてる冴香に、薫はますます好感を抱いた。
「飯島さん。君ってちょっと変わってるな。第一印象とイメージが随分違う」
冴香は頬を押さえたまま首を傾げ
「それって……幻滅したってこと?」
「いや。君のことをもっと知りたくなった。俺なんかと友達からでいいのなら、こちらこそよろしく」
薫が笑いながら手を差し出すと、冴香は嬉しそうに微笑んで、薫の手を握った。
そんな風にして、薫と飯島冴香との付き合いは始まった。
大学とバイト先とアパートの往復だけだった薫の単調な生活に、冴香の存在は明るい華をもたらした。勉強や仕事の隙間を縫うように、2人は時間を共有した。
お友達から始まった2人の付き合いが、やがて恋人という関係になっていくのにそれほど時間はかからなかった。
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