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突然の君3

薫は、本気でムカッときて、大声で怒鳴りつけてしまった。 その子はびくんっと飛び上がり、一瞬泣きそうに顔を歪めた。殴られるとでも思ったのか、掴まれていない方の腕をあげ、頭を庇うような格好をする。 その意外な反応に、薫ははっとした。そのまましばらくお互いに黙って睨み合う。 (……落ち着け。相手はこんなちっこいガキだ。俺が片手で押さえ込んだだけで、動けなくなるような子どもだぞ) 何の目的で勝手に家の中に入ってきたのか分からないが、とにかく冷静になって、こいつときちんと話をしよう。もし、話が通じなかったり、おかしな行動をするようなら、警察を呼べばいい。 薫はそう自分に言い聞かせ、頭を冷やそうと、そっと深呼吸した。 「おまえ、この近くに住んでるのか?」 努めて穏やかに問いかける。子どもは警戒心ばりばりの目をして、睨んだままだ。薫はため息をつき 「答えろよ。家はどこだ」 「ここから南」 ぶすっとして呟くガキに、またイラッとした。 (……そんなアバウトな返事があるかよ) 「近くなのかって聞いてるんだ」 薫の質問に、何故かその子はどこかが痛むような顔をした。 「近くは……ないじゃん。電車乗って来たんだからさ」 (……またしてもおかしな返事だ。こいつ……ちょっと足りないのかもしれないな) 薫は表情と口調を少し和らげた。 「年はいくつだ。名前は」 聞きながら、薫はこの近くの交番が何処だったかと考えていた。この子の精神年齢が見た目よりかなり幼いのなら、警察を呼ぶより、交番に迷子だと連れて行った方がいいかもしれない。 「あんた、いくつだよ。そっから8引けばいいじゃん」 「は?」 会話がまったく噛み合わない。 薫は眉を顰め、子どもの顔をまじまじと見つめた。さっきまでのびくついた表情が、嘘だったかのような不遜な態度だった。口を尖らせ嘲りの笑みを浮かべて 「頭あんま良くないんだね、大学生のくせに」 ちょっとイラっとしたが、薫は逆に少し冷静になった。どう考えても、こいつはマトモじゃないらしい。カッカしながら応対していても、埒が明かない。 薫ははぁっと大げさに溜め息をつくと、子どもから手を離した。その態度にその子はまた、ちょっと不安げな表情になる。 「来いよ。部屋でゆっくり話聞いてやるから」 薫の態度と言葉がよほど意外だったのだろう。子どもはぽかんとした顔になり、慌ててまた不貞腐れ顔に戻ると 「……いいのかよ。俺の名前も分かんないくせに」 (……俺……ってことは、こいつ男か。 声も高いし、目も大きいし、頼りなげな身体つきからも少女のように見えるな。まあ、この年頃の男の子は、華奢だと性別分からないようなのもいるけどな) 「ああ。そうだな。じゃあまず自己紹介か。俺の名前は……」 「藤堂薫。○○大学3年のおっさん」 すかさず口を挟んだ少年の言葉に、薫は目を見開いた。 「……おまえ……なんで俺の」 「だってあんた、俺の兄さんなんだろ。……血は繋がってないけどさ」

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