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突然の君4

薫は唖然とした。相当マヌケ面をしていたのだろう。少年は呆れたような顔で鼻を鳴らし 「酷いなあ、お兄ちゃん。可愛い弟の顔、覚えてなかったんだ?」 薫は呆けたまま、少年の顔を穴の開くほど見つめた。 「おまえ……樹……か」 「ふうん。名前は覚えてた? そ。俺、あんたの弟の樹だよ」 (……驚いた。弟だと言われて何とか名前は出てきたが、正直、記憶に残っていたイメージとかなり違う) 一緒に暮らしてはいたが、生活時間がまったく違うこの弟と、顔を合わすことはほとんどなかった。意識して避けていたから尚更なのだが、薫の中で樹という少年は、初顔合わせの時の印象のままだった。 痩せっぽっちで目だけ大きい、発達途中のまだアンバランスな子ども。 (……俺は今21歳だから、8を引くと13歳。 なるほど、さっきの噛み合わない会話の謎も解けた。足りなかったのは、俺のおつむの方だったわけか) 謎は解けたが、実家にいた間もほとんど交流のなかった義弟が、どうして突然ここに訪ねてきたのかという疑問は残る。 薫は樹から目を逸らし、部屋のドアを開けて 「とりあえず、中入って座れ」 馬鹿にしたような顔をしている樹を、部屋に招き入れた。 「なんか飲むか?」 薫のアパートは、8畳の居間兼寝室兼書斎が一部屋だけの1Kだ。狭い台所とユニットバスと、洗濯物がかろうじて干せる狭いベランダ。大学が近いから住人はほぼ同じ大学の学生で、お世辞にも綺麗とは言えない古い建物だった。 部屋に入り、物珍しそうにきょろきょろ見回している樹に、壁際の勉強机の椅子に座るようにすすめて、薫は冷蔵庫の中身を思い浮かべた。 (……水はある。お湯を沸かせば粉末のコーヒーぐらいならいれてやれるが、果たしてこのガキ、コーヒーなんて飲めるのか……?) 樹は中古で揃えた勉強机とセットの椅子を、座り心地を確かめるようにギコギコ揺らしている。 「こら。スプリングが壊れるだろ。大人しくしてろよ」 薫のひとことに樹は首を竦め 「こんなオンボロ使わなくても、家のあんたの部屋には、立派な机と椅子あるじゃん」 「あんなデカいの、この部屋に入るか。それよりおまえ、コーヒーって飲めるのか?」 樹は渋い顔をして 「苦いからやだ。俺、ホットココアが飲みたい」 (……ホットココア……?そんなシャレたもんあるわけないだろ) 薫は台所に行き、やかんでお湯を沸かすと、2人分のコーヒーを入れた。自分の分はブラックだが、樹のには砂糖とミルクをたっぷり入れる。 「砂糖とミルク入れて、甘くしてやったから飲め」 そう言って、マグカップを机の上に置いた。樹はカップと薫の顔を見比べてから、手を伸ばして恐る恐る口をつけた。
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