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突然の君5

樹は猫舌なのか、いったん口をつけてから熱そうに顔を顰め、もう一度慎重に口をつける。 人を小馬鹿にしたような顔をしている時は、随分大人びて小生意気に見えていたが、両手で持ったカップにふうふうと息を吹きかけ、ちょっとずつ舐めるようにして甘いコーヒーを飲む姿は、年相応に幼く見える。 薫はベッドに腰掛け、コーヒーをすすりながら、樹の様子をさり気なく観察した。 初めて会った時の樹は、黒髪のストレートだったはずだ。脱色したのか染めたのか、今は柔らかい茶色の髪で、おそらく緩いパーマをかけているのだろう。母親似の綺麗な顔だちで、目が特に大きくて睫毛が長い。少女だと言われても違和感のない、可愛らしい顔だ。 (……たった3年で随分変わるもんだな) 考えてみれば、10才から13才というのは、子供っぽさが抜けてきて変化が著しい時期だ。1年で身長が10cm伸びるなんて子もザラなのだ。洒落っ気も出てきて、いろいろ背伸びしてみたくなる年頃だろう。 (……まあ、こいつの場合は、パーマやら染髪やら、ちょっと背伸びしすぎな気もするが。 だいたい、あの気難しい父が、中学生の息子に、よくこんな格好を許しているものだな) 「なに、じろじろ見てんの」 薫の視線に気づいた樹が、嫌そうに顔を顰める。 (……黙って澄ましていれば、かなり可愛いらしい顔なのにな……) 薫は苦笑して 「いや。随分変わったもんだなと感心してた。その髪、染めてるのか? 学校で先生に怒られるだろう」 樹は首を竦めて 「染めてないし。パーマもかけてないよ。大人ってみんな、同じことしか言わないよね」 「でもおまえ、初めてあった時、黒髪で真っ直ぐだっただろう?」 「……へえ……。覚えてんの? あんたずっとそっぽ向いてたじゃん。俺のことなんか見てないと思ってた」 樹は髪の先を摘んで、指でくるくる巻きながら口を尖らせた。 確かに、樹の言う通りだ。自分がすごく嫌な態度をとったという自覚があるから、薫は少し後ろめたい気分になった。 「……悪かったな。あの時は、俺も再婚なんて寝耳に水だったんだ」 樹はちらっと薫の顔を見て、ぷいっと目を逸らし 「俺や母さんのこと……嫌い? だからあんた、家出てったんだよね」 「いや。嫌いとか、そういう問題じゃないよ。あの時は、母が死んでまだ1年も経ってなかった。そう簡単に受け入れられないことだってある。おまえには……まだ分からないかもしれないけどな」 樹はカップから顔をあげ、こちらを見た。 「それぐらい、分かる。俺だって」 そう呟きかけ、くちごもる樹の表情が、妙に大人びて見えて、薫はどきっとして目を逸らした。 「それで……今日は突然どうしたんだ? 父さんから何か頼まれ事か?」

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