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第5章.迷い猫1
薫は樹の姿を探しながら、地下鉄の駅へと向かった。途中では結局樹を見つけられず、駅へ降りる階段の所に辿り着く。
電車に乗る金を持っていたのなら、樹はもうとっくに電車の中だろう。金がなかったとしたら、何処へ行ったのかなんて見当もつかない。
薫は途方に暮れて、考え込んだ。
このまま闇雲に探していても樹は見つからないだろう。実家に電話をして、義母にもう少し詳しく話を聞いた方がいいかもしれない。
ポケットの携帯電話を取り出して、実家に電話を掛けようとして、薫ははっとした。
道路を挟んで向こう側のコンビニの駐車場に、ワンボックスカーが1台停まっている。その脇にチャラチャラした格好の男が2人。金髪の男が腕を掴んでいるのは樹だ。
薫は咄嗟に駆け出していた。
信号は赤だったが、朝早いせいか交通量はほとんどない。片側2車線の道路を突っ切って、ワンボックスカーまで一気に駆け寄る。
「離してよっ。乗らないって言ってるじゃん!」
「迷子なんだろー? お兄さんたちが送ってってやるからさ~」
樹は必死に男の手を振りほどこうとしているが、もう1人の男がドアを開けた車の後部座席に、引き摺り込まれそうになっている。
薫は2人に駆け寄ると、樹の掴まれていない方の腕を掴んで、ぐいっと引き寄せた。
「は!? ちょっおいっ」
「すみません。弟がご迷惑おかけしちゃったみたいで。こら~。おまえ勝手にいなくなるなよ」
不意をつかれて思わず手を緩めた男から、樹を奪い取って抱き締める。
男はぽかんとした顔で、薫と樹を見比べてから眉を顰めた。
「……弟? ちっ、男かよ」
薫は近づいてくるもう1人からも、少しずつ後ずさり、樹の身体を後ろに庇うように立って、ぺこりと頭をさげた。
「本当に、すみません。保護して頂いて助かりました。ありがとうございました!」
男たちが我に返って絡んでくる前に、薫は大声で叫ぶと、樹の腕を掴んで足早に駐車場を後にした。
駐車場を出ると、薫は樹の手首を掴んだまま、コンビニからなるべく遠ざかろうと走り出した。少ししてから後ろを振り返って見たが、男は追いかけては来ないようだ。
何度か角を曲がり、住宅街の真ん中の公園の前で、薫はようやく足を止め、はあはあと肩で息をした。樹も引き摺られるように、かなり長い距離を走っていた。2人並んで屈みこみ、しばらくぜえはあと呼吸を整える。
「……どうして? 」
ようやく息が落ち着いてきた頃、樹が小さく呟いた。薫は樹の顔を覗き込み
「最近走ってないからな。息があがってる。はは、運動不足だよな」
そう言って笑う薫に、樹はちょっと泣きそうな顔をして
「そうじゃ、なくてっ。なんで、俺のこと、追いかけてきたんだよ。どーして助けて、くれたの」
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