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第6章.兆し1

「……」 樹は大きな目を更にまん丸に見開き、上を見上げて固まっている。 薫は樹の見つめている視線の先を辿り、首を傾げた。 「どうした? 何、熱心に見てるんだ?」 目の前にあるのは、海賊船型のアトラクションだ。巨大な船が振り子のように大きくスイングする度に「きゃーーーー」っという悲鳴があがる。船の上に乗る客たちは、半分恐怖に顔を引き攣らせつつ、非日常的な刺激を楽しんでいる。 よく見ると、樹のまあるい目は、大きく左右に揺れる船を、きょろきょろと追いかけていた。 「あれ、乗ってみたいのか?」 薫は笑いを噛み殺しながら、樹の顔を覗き込む。 遊園地のゲートを通り抜けてからずっと、樹は好奇心を隠し切れない様子で、あっちこっちをきょろきょろ見回しては、薫と目が合うと急に無表情になり、しらけた風を装っていた。 (……素直じゃないよなぁ) 別に思いっきりはしゃいでみせたって、誰も咎めたりからかったりしない。あの年なら遊園地でテンションが上がっても全然変じゃないのだ。 隠し切れない子どもっぽさが、背伸びしようとする樹の全身から、ぽろぽろと零れ落ちている。 薫の質問に樹は振り返り、見とれていたのを誤魔化すように仏頂面をすると 「……別に……乗りたいって訳じゃ」 「俺は乗ってみたいんだけどなぁ、あれ。面白そうだろ」 樹はアトラクションと薫の顔を見比べて、首を竦め 「じゃあ、乗ってくればいいじゃん」 「俺1人でか? ちょっと恥ずかしいな。おまえも付き合えよ」 「……ふうん。兄さんが乗りたいなら、付き合ってもいいけど?」 渋々と言いたげな樹の目に、嬉しそうな色が滲む。薫はまた笑いを噛み殺し 「よし。じゃ乗ってみよう」 薫は樹を促して、乗り場で順番を待つ人達の列に加わった。 順番が来て、係員の誘導で船に乗り込む。薫は樹の先に立ち、船の1番端に向かった。 このアトラクションは当然のことながら、船頭か船尾が最も振り幅が大きい。最高だと座った状態で身体が完全に逆さになるほどだ。小さな子ども連れの親子は、船の真ん中の座席を陣取っている。 「ここでいいか?」 「……うん」 席に座り、係員がストッパーの安全を確認している間、樹はそわそわと落ち着かない様子だった。期待と不安の入り混じった複雑な表情だ。 やがて汽笛が鳴り、アトラクションが動き始めた。樹は少し緊張した面持ちで、腰の位置で固定されたバーをきゅっと握り締める。 最初はゆっくりと少しずつ、振り幅が徐々に大きくなっていく。 なんだ、こんなもんか……とでもいうように、樹は拍子抜けした顔になり、バーを掴む手の力をゆるめた。

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