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三日月の思い5
義兄のことを思い出すと、胸のむかつきもだいぶマシになる。
とにかく早くプレゼントを選んで、アパートに行かなくては。
さっき雑貨屋さんで見つけた、ちっちゃなクリスタルの置き物。球体の中に、無数の星と大きな月が閉じ込められてて、光に透かすとすごく綺麗だった。
2,280円。往復の電車代が足りなくなるけど、足りない区間は歩けば何とかなる。
樹は立ち上がって、さっきの雑貨屋さんに戻ろうとした。
公園の入口で、おじさんが台の上にアクセサリーを並べて売っている。その前を通りかかって、ふと足が止まった。
ペアのペンダント。細い鈍色の鎖の先に、月の形のヘッドと、その月をくり抜いた小さな星の形のヘッドがセットになっている。樹は思わず近づいて、手に取って見てみた。月も星も小さな光る粒がついていて、2つ合わせてもバラバラにしても、すごく可愛いくて綺麗だ。
樹はちょっとドキドキしながら、値札を見た。
2本セットで2,150円。
(……買える。でも……こんな安物のペンダント、義兄さん喜んでくれるかな。笑われちゃうかな)
樹が食い入るように見つめていると、店のおじさんが
「お嬢さん、それ、気に入ったのかい? 今日最初のお客さんだから、おまけしてあげようか。2,000円ちょうどでいいよ」
樹はばっと顔をあげて、おじさんを見た。
「え。ほんと?」
「好きな子にあげるんだろう? いいよ。2,000円で」
樹はもう1度ペンダントを見つめた。小さなキラキラの粒が入ってて、やっぱりすごく可愛い。
「じゃあ、これ、ください」
「2本一緒に袋に入れるかい?」
「あ……えっと、別々で」
「はいよ」
おじさんは英字の書いてある小さな袋に、別々に入れて綺麗なテープを貼ってくれた。樹は財布から2,000円取り出しておじさんに払い、それを受け取った。
「それはね、ペアでつけると想いが叶うんだよ。好きな子と上手くいくといいね」
にこにこ笑いながら見当違いな応援をしてくれるおじさんに、樹は曖昧に笑い返してその場を離れた。
(……僕、お嬢さんじゃないし。
ってか好きな子にあげるってのも違うし。……ペアで?そっか。これってペアでつけるんだ)
丸い月の中に小さな星がすっぽり入ってるデザインに、何故か心惹かれて思わず衝動買いしてしまった。でもよく考えてみれば、義兄に贈る誕生日プレゼントに、ペアのペンダントなんておかしいのかもしれない。
樹は立ち止まり、今出てきた公園を振り返って見た。オマケしてもらって別々に袋にまで入れて貰ったのに、今更返すなんて出来ない。
月の中の星を外しても別におかしなデザインじゃないし、ペアだって言わなければ分からないかもしれない。
樹は地下鉄の駅に着くとトイレに行って、星の方のペンダントを袋から取り出した。周りに人が居ないのを確かめて、自分の首にそれを付けてみる。小さな星のペンダントは、Tシャツの内側に入れてしまえば見えなくなる。樹はちょっと後ろめたい気分で鏡から目を逸らすと、トイレから出て駅のホームに向かった。
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