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月無夜6※
……ずっと変な夢を見てた。
身体がふあふあと浮いてる感じ。
暑くて堪らない。どうしちゃったんだろう。僕の身体。お腹の下辺りがもやもやしてて、熱くてどろどろに溶けちゃいそうだった。
気持ちいい……?
気持ち悪い……?
なんだかよく分からない。
目蓋が重たくて目が開けられない。時々、必死で目を開けると、極彩色の光が襲いかかってきてくらくらした。猫が鳴いてるみたいな変な声が聞こえる。これは……僕の声……?
(……母さん……どこ……?)
「目が覚めたか?」
叔父が顔を覗き込んでくる。樹は目をぱちぱちさせた。もうくらくらしない。暑くもない。大丈夫、熱はさがったみたいだ。
「だいぶ汗かいてたな」
樹は口を開けて何か言おうとしたが、喉がからからで声が出なかった。けほっと変な咳が出る。叔父はちょっと首を傾げてから
「水を飲むか?」
樹は頷いた。叔父はペットボトルの水にストローを挿して持ってくると、身体を抱き起こしてくれた。叔父に支えられて、樹はストローをくわえた。砂漠みたいになっていた喉に、冷たい水が染みていく。樹は一気に半分近く水を飲むと、ストローを放してはぁっとため息をついた。
「もう……いい」
叔父はペットボトルをテーブルに置くと、戻ってきて樹の額に手をあてた。
「熱は下がってるな。どうだ、気分は?」
「……大丈夫。もう平気」
「腹は減ってるか? おじやの残り、持ってきてやるか?」
樹はちょっと首を傾げてから、横に振った。
「いらない。お腹空いてないから」
「お母さんから、もうすぐ帰るって電話きたぞ。もうちょっと寝てろ」
樹は頷くと、叔父の顔を見つめた。
「……ありがとう。迷惑かけて……ごめんなさい」
叔父はちょっと驚いた顔をしてから、にっこり笑うと
「おまえは……いいこだな、樹」
そう言って、樹の頭を優しく撫でてくれた。
樹は叔父のことを、好きでも嫌いでもなかった。最初はちょっと苦手だったが、家族と壁を作っていたあの頃、叔父との約束を口実に、家から離れていられるのは正直嬉しかったし、叔父の大学に連れて行ってもらうのも、大人の世界を覗きに行くような感じで楽しかった。
叔父のゼミの学生たちは、樹が研究室に行くと、気さくに話しかけて構ってくれた。樹はそこでも人見知りを発動して、叔父の影に隠れてばかりいたが、みんな優しくしてくれるから、少しずつ打ち解けていった。
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