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想いいづる時7※
華奢な身体を抱き締めて、その肉感的な唇に自分の唇を重ねる。微かに喘ぐ口を割り、舌を差し入れ、逃げ込む舌を絡めとり、きつく吸い上げる。
鼻から漏れる息。口から漏れる水音。
んっんっという悩ましい吐息が、下半身を直撃する。
柔らかい唇が、唐突に俺の下腹に触れた。小さな赤い舌が、ちろちろと俺のものを舐める。口を開け、俺の屹立をぱくっと咥えた相手が、上目遣いで俺を見る。
(……っ!)
白昼夢のような光景は、一瞬で消えた。薫はあまりの衝撃に呆然として、目の前の小さな顔を見つめた。
(……なっ……なんだよ、今のは)
まるで実際にあった記憶のように鮮明な……いや、実際にあんなことがあったはずがない。だって、自分のものを咥えて、上目遣いに見上げたのは……
「……樹」
思わず零れた薫の呟きに、樹は怪訝な顔で首を傾げた。
(……いや。そんなはずはないだろう。馬鹿なのか、俺は。いったい何考えてるんだっ)
時折大人びた表情をすると言っても、目の前の少年はまだ中学生だ。しかも……弟……男じゃないか。
(……いやいや、待て待て。今のは俺の妄想なのか?どういうことだ、しっかりしろって。こんないたいけな弟に馬鹿げた妄想を抱くなんて……)
「兄さん。顔、真っ青」
「う?……あっああ、いや」
「具合……悪い?」
樹が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「あーいやいや、大丈夫だ。はは。何だろうな、今ちょっとぼーっとしてた」
上擦った声で、必死に言い訳しながら、薫は内心パニクっていた。樹は納得してないのだろう。ますます眉を顰めて、腕を伸ばすと、薫のおでこに手をあててきた。
(……うわっ。顔、近いって)
薫の内心の動揺を知る由もない、樹の無防備な接近に心臓が早鐘を打つ。樹のふっくらした柔らかそうな唇に目がいった。
(……あの唇の感触を、俺は、知っている……気が……)
「いやっ、大丈夫だ。熱なんかないぞっ」
薫は叫んで、樹から身をひいた。
樹の手のひらが、薫の額にあてた形のまま、宙に取り残される。
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめ合ってしまった。
先に我に返ったのは樹の方で、宙に浮いたままの手をそろそろと引っ込め、ぷいっとそっぽを向く。その表情が、何故か傷ついたように哀しげに見えて、薫は思わず手を伸ばして樹の手を握った。
「あ~悪い。心配させたよな。自覚してるより、俺は疲れてるのかもしれないな。きっと細かい字を見過ぎて、頭がぼんやりしてたんだ。あ、でもな、別に具合は悪くないから安心しろ」
(……まさか、おまえに不埒な妄想を抱いてパニクっていた……なんて、口が裂けても言える訳がない。
まったく……今日の俺はどうかしている。樹とすぐに打ち解けた牧先輩に、嫉妬めいた気持ちを抱いたり、樹とキス、いやそれ以上のことをする妄想を抱いたり。
……溜まってるのか? 俺は)
なんとも情けない兄じゃないか。これでは樹に軽蔑される。
樹の手がもぞもぞと動いた。見ると樹はなんだか赤い顔をして、樹の手を握っている自分の手を睨みつけている。
薫は慌てて手を離し
「ほら、せっかく先輩が作ってくれたクラブサンドだ。うん、美味そうだぞ。食べてみろよ、樹」
樹は俯いたまま頷いて、皿に手を伸ばしてひと切れ取り上げると、はむっとかぶりついた。
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