75 / 448

想いいづる時9

薫は樹の仏頂面は完全にスルーして、ご機嫌な様子で車を運転してる。 スーパーでも薫は、ずっと楽しげだった。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉。次々にカートに乗せていく。カレールウの棚では、何種類もある箱を、あれこれ手に取ってみて 「教えてもらったコツだと、ルウはどれでもいいのか?それとも、スパイスから作ったりするのか?」 「違う。普通のカレールウでいいって。これとこれの組み合わせが美味しいって」 樹がそう言って2種類選ぶと、薫はしげしげと箱の表と裏を眺めて 「へえ。こんな安いのでいいのか。肉も、おまえが選んだの、特売の豚肉の小間切れだっただろ」 「うん。大丈夫……だと思う」 「なんかますます楽しみになってきたな。他には何か必要か?」 樹は無言で首を振った。 「で、教わったコツって何なんだ? 隠し味とかか?」 「……」 台所で隣に立ち、薫は興味津々で、樹にへばりついている。 (……んもぉ……そんなぴったりくっついてたら、緊張しちゃって指切りそうじゃん) 樹はなるべく自分の手元に意識を集中した。玉ねぎを分量の半分、ちょっと小さめに切って、先に油を熱した鍋で中火で焦げないように炒めながら、残りの玉ねぎとにんじんとじゃがいもを一口大に切る。じゃがいもは水にさらしておいて、樹は玉ねぎを炒めることに集中した。 「おい、俺もなんか手伝うぞ」 樹の手元を見つめながら、薫はまたぴったりとくっついてきた。 「……いい」 「肉はどうするんだ?食べやすい大きさに切っとくか?」 こないだカレーを作った時の、薫の危なっかしい包丁さばきを思い出して、樹は眉を顰めた。 「俺、やるから。義兄さんは向こうで勉強してて」 「なんだよ、おまえ冷たいな。こういうのは、一緒に作った方が楽しいだろう?」 「……邪魔。1人で出来るからいい」 「うわ……」 薫は呟いて絶句した。 ちょっと言い過ぎたかな? と、樹が隣の義兄の顔をそっと見ると、にやっと笑った薫と目が合った。 「……なに?」 「いーや。おまえ……可愛いな。うん、ほんと、いい子なんだよなぁ」 薫は何故か1人で納得してにこにこ笑うと、樹の頭をぽんぽんと撫でた。

ともだちにシェアしよう!