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想いいづる時9
薫は樹の仏頂面は完全にスルーして、ご機嫌な様子で車を運転してる。
スーパーでも薫は、ずっと楽しげだった。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉。次々にカートに乗せていく。カレールウの棚では、何種類もある箱を、あれこれ手に取ってみて
「教えてもらったコツだと、ルウはどれでもいいのか?それとも、スパイスから作ったりするのか?」
「違う。普通のカレールウでいいって。これとこれの組み合わせが美味しいって」
樹がそう言って2種類選ぶと、薫はしげしげと箱の表と裏を眺めて
「へえ。こんな安いのでいいのか。肉も、おまえが選んだの、特売の豚肉の小間切れだっただろ」
「うん。大丈夫……だと思う」
「なんかますます楽しみになってきたな。他には何か必要か?」
樹は無言で首を振った。
「で、教わったコツって何なんだ? 隠し味とかか?」
「……」
台所で隣に立ち、薫は興味津々で、樹にへばりついている。
(……んもぉ……そんなぴったりくっついてたら、緊張しちゃって指切りそうじゃん)
樹はなるべく自分の手元に意識を集中した。玉ねぎを分量の半分、ちょっと小さめに切って、先に油を熱した鍋で中火で焦げないように炒めながら、残りの玉ねぎとにんじんとじゃがいもを一口大に切る。じゃがいもは水にさらしておいて、樹は玉ねぎを炒めることに集中した。
「おい、俺もなんか手伝うぞ」
樹の手元を見つめながら、薫はまたぴったりとくっついてきた。
「……いい」
「肉はどうするんだ?食べやすい大きさに切っとくか?」
こないだカレーを作った時の、薫の危なっかしい包丁さばきを思い出して、樹は眉を顰めた。
「俺、やるから。義兄さんは向こうで勉強してて」
「なんだよ、おまえ冷たいな。こういうのは、一緒に作った方が楽しいだろう?」
「……邪魔。1人で出来るからいい」
「うわ……」
薫は呟いて絶句した。
ちょっと言い過ぎたかな? と、樹が隣の義兄の顔をそっと見ると、にやっと笑った薫と目が合った。
「……なに?」
「いーや。おまえ……可愛いな。うん、ほんと、いい子なんだよなぁ」
薫は何故か1人で納得してにこにこ笑うと、樹の頭をぽんぽんと撫でた。
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