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月の想い・星の願い10

樹は、自分のしてしまったことに呆然として、個室からしばらく出られなかった。 家の自分の部屋でも、義兄のことを想像しながら、こしこししたことはあった。でもあんなにエロい気分になったのは初めてだった。まるで本当に義兄にされているみたいで、出てしまった後も身体がびくびく痙攣して、樹はなかなか現実に戻れなかった。 でも……熱に浮かされたみたいな感じがだんだん冷めてくると、樹は自分の何もかもが汚く感じて、心の底から嫌になった。 このまま消えてしまいたい。 ほんとにサイテーだ。 (……僕はやっぱり病気なんだと思う。身体だけじゃない。きっと心も、変な病気なんだ。 これって、もっとどんどん酷くなっていっちゃうのかな。 叔父さんは、おまえのインランは生まれつきだから、治らないって言ってた。だから、ちゃんと躾しておかないといけないんだって。 僕はどんどんおかしくなって、そのうち義兄さんにも、バレちゃうのかもしれない。僕がこんなイヤラシイ変な弟だって知ったら、義兄さんはきっと哀しむ。 せっかく仲良くしようなって言ってくれたのに。僕が遊びに来るの、楽しみにしてくれてたのに) 前を歩く薫の背中を見つめながら、樹は滲んでくる涙を、瞬きをして散らした。 冴香と合流すると、車に乗り込んで彼女のマンションに向かった。部屋の模様替えをするという冴香をマンションの前に降ろすと、そのまま樹を連れて自分のアパートに戻る。 樹は、なんだか酷く疲れたような顔をしていた。冴香が一緒だったから、この子なりにすごく気を遣わせてしまったのかもしれない。 ぶっきらぼうで無愛想で、いつも無表情だけど、樹は心根の優しい子だと思う。表に出さないだけで、きっと感受性も強い子なのだろう。 冴香は樹のことがすごく気に入った様子だ。自分の弟のようにあれこれと世話を焼いて、自分と2人きりで会っている時より楽しそうで、うっかり妬いてしまいそうなほどだった。 冴香によって色彩のついた薫の日常は、樹の出現で更に輝きを増した。 将来を約束したいほど大切な恋人。 成長を見守ってやりたい大切な弟。 勉強も順調で、自分の思い描く未来の夢に、着実に近づいている。 全ては順風満帆のはず、だった。

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