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月の想い・星の願い11

「……え……。今、何て言ったんだ?」 愕然とする薫に、冴香はまったく表情を変えずに、同じ言葉を繰り返した。 「ちょっと距離を置きたいって言ったの。ねえ、薫。私たち、友達に戻りましょう?」 何の予兆もなく、突然突きつけられた、冴香からの恋人解消の言葉。 それは意味を成さないただの音のように、薫の耳には響いた。 「……なに……どういう……ことだ? ……急に、どうして」 薫が冴香と一緒に山形のご実家に行ったのは、ほんの2週間前のことだ。ご両親と妹さんと弟さんにも会って、2晩泊めてもらった。冴香のご家族は、皆とても温かく自分を迎えてくれて、和やかな時間を過ごせた……と思っていた。 今だって、昨夜から冴香のマンションに泊まって、彼女の作ってくれた朝食を食べて、ソファーでコーヒーを飲みながら寛いでいたのだ。 「……冗談、キツイな。どうした? 何を怒ってるんだ?」 そんなはずはない。今の言葉はきっと聞き間違いだ。 薫は内心の動揺を押し殺して、苦笑しながら冴香を見上げた。目が合った冴香は、笑っていなかった。 「もちろん、冗談に決まってるじゃない」 そう言って笑ってくれると思った彼女は、冷ややかな目をして、こちらをじっと見下ろしている。 「……別れる……って……ことなのか?」 自分の声が掠れているのが分かる。冴香はすっと目を逸らし 「そんなこと、言ってないわ。ただちょっと、お互いいろいろ忙しくなってきたし、少し距離を置いて、やらなきゃいけないこと、優先させてもいいかなって」 「だったら別に、友達に戻る必要ないだろう。今まで通り、恋人のままで、会う機会を減らせばいいだけじゃないか?」 薫はあまり必死になり過ぎないように、極力軽い調子で言ってみた。引き攣りそうになる顔に、精一杯の微笑みを浮かべてみる。 (……落ち着け。冴香は、俺のことが嫌になって、別れたいと言ってるわけじゃないんだ) 冴香はちらっと薫を見て、小さくため息をついた。 「……ごめんなさい。私が我が儘だって……分かってる。薫は何も悪くないわ」 「謝らなくていい。ただ、どうして急にそんな風に考えたのか、理由を聞かせてくれないか?」 冴香は頷いて、薫の向かいに腰をおろすと 「ちょっと……このところ、いろいろ考えちゃってたの。私の……将来のこと」 「将来……? 勉強が行き詰まってるのか?」 「ううん。そうじゃないわ。ただ、大学に入学した時に思い描いてた夢とは、ちょっと違ってきちゃったかな……」 冴香はちょっと疲れたような、ぼんやりした表情でそう言って 「ほんと、ごめんなさい。これ以上は無理。薫が、そんな我が儘付き合えない。別れたいって言うなら、それでもいいわ」 別れたいわけないだろうっ。 思わず口から出そうになった言葉を、薫はぐっと飲み込んだ。

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